大学生の自由帳

ペンギンパニックとエノキ工場の香り

「あまつかぜ」あいうえお作文コンテスト・採点結果と講評DX

先に言っておきますが、約2万字あります。DXである所以です。

 

経緯と注意

先々週末の名大祭で実施した「エクストラステージ2023」は、おかげさまで盛会のうちに閉幕しました。ステージ脇をうろちょろしていただけの私とても、溢れる達成感が動脈に詰まって半身不随になっていました。

その事後報告記事も既に上がっています。

nujiyucho.hatenablog.com

しかし、私のエクストラステージはまだ終わっていませんでした。「あいうえお作文コンテスト」の結果報告をし、講評とともに公開するというミッションが残されていたからです。

 

ところで、審査会自体は恙なく終えることができたのですが、その方法には多くの反省点が見つかりました(採点が完了した後で言うのもアレですが)。

その最たるものとしては、作品の発表方法を朗読としたこと、および採点に非常に短い時間しか割かなかったことです。それによって、いくら審査員は事前に作文に目を通してきているとはいえども、どうしても直感に傾斜した評価となりがちで、よって分析的に評価することが困難となってしまっていました。

その点を踏まえて本記事では、審査会当日の点数・コメントに加えて、あいうえお作文のプロ・アマチュアを持って自ら任ずる私および(なぜか)あいうえお作文に理解のある大学生の自由研究メンバー有志の評価も併記しておきました。そこでは過去の「あいうえお作文研究会」でしたような、やや踏み込んだ分析がされたりされなかったりしています。

nujiyucho.hatenablog.com

nujiyucho.hatenablog.com

 

エクストラステージのモブ企画に過ぎなかったはずの「『あまつかぜ』あいうえお作文コンテスト」。

元はといえば、「あまつかぜ」なんていう”立派な”テーマが掲げられてもせいぜいイメージカラーをそこかしこに散りばめる程度のことしかしないであろう名大祭で一番『あまつかぜ』に関係する企画をやろうと考えて始めたことでした。ですからあいうえお作文なんか元々クソほども興味がなかったのですが、今ではあいうえお作文啓蒙活動家みたいになっています。

自分でも、なんでこんなに膨大な時間をあいうえお作文に捧げているのか理解できません。助けてください。

 

審査会の風景

意見、反論、苦情、疑問、擁護、自己弁護、補足説明、異議申し立てなどはコメント欄にお願いします。いずれも全然必要ないと思いますが。

それと、コメント欄にあいうえお作文を投げてもらえれば、気が向いたら感想を言います。なぜなら私は啓蒙活動家だからです。

 

応募作品

審査会以来執拗に見返してきたため、大体の作文は覚えてしまいました。小学生の頃集めていた遊戯王のカードの記憶ぐらい要らないです。脳の容量が勿体ないですね。

No.1...いただ金貨さんの作文

【当日の点数】

8-4-6...18

【当日の講評】

:適度に文学的で、適度に奇抜。力み過ぎていない。

:最初のやつは5点にしようと思ったが、「ゼータファノマノンって何?」と思っちゃったので4点。

:リズム感が良くてオチがついている。

【企画者評】

清潔な作文だと感じました。各行の簡潔さもそうですが、「朝」「彼女」というような輪郭のボケた簡単な単語も同様にそうさせているのだと思います。その清潔な印象の後で「ゼータファノマノン」という意味不明な、しかしどことなく生命科学っぽい雰囲気の単語が来ることで、無菌室/実験室的なキモさが滲んでは来ないでしょうか。

そのように「清潔なキモさ」を漂わせる作文ですが、その内容は「またその話か」から察されるように日常、それも倦んだ日常です。「ゼータファノマノン」という珍奇な語さえも、「つまるところ」に先行されあたかも既知の語のように振る舞っています。

この作文において起こっていることとは、清潔なキモさ(=明るい異常)と倦んだ日常(暗い平常)の調和です。その結節点でもあり、最終行に来る無内容な「ゼータファノマノン」という言葉は、この調和なるメタなキモさという新たな境地への到達を感じさせます。

ですが一方で、やはり繰り出されたときの撃力はやや弱いかもしれません(スピードタイプではない、と言えるかもしれません)。そもそもゼータファノマノンが造語だと分からないと理解を諦められてしまいます*1。ともあれ、いきなりですがとさせてください。

【審査員およびコンテスト関係者の後日評】

:なかなか抒情的で良いと思います。

:文脈が構成されており、かつ何かつまって結論を出してる部分が面白いと感じた。

:あいうえお作文の典型的な形に落とし込んでおり綺麗に着地しているが、不勉強なためゼータフォノマノンが何なのかわからず、あまり面白がれなかった。

:「文字に合わせに行った」感はそんなにありませんが、不思議と各段でぶつぶつ切れるような印象を受けます。文字数の流れを意識すればもう少し流暢になったかもしれません。

 

No.2...にたまご担当大臣さんの作文

【当日の点数】

5-3-2...10

【当日の講評】

:まっすぐなメッセージでいいなと思ったが、それ以外特に何も思わなかった。

:オーソドックスな作りでとくにオチもない。

:好みではなかった。

【企画者評】

サイコストーカーの心理と行為を綴る各行が全てひらがな5文字で構成されていることが最大の特徴だと思います。その工夫は、サイコストーカーの盲目的で狂気的な執念、および激情から短絡的に行われるサイコ行為を表現するのに適切であると感じました。5行全てがサイコストーカーの言葉から構成されているのも、自己中心的な感じが出ていて良いです。

ですが気になるのは、文体が均質であるために抑揚が弱くなっており、意外性がないところです。当日の講評でも「オチがない」と指摘されているように、

リズムと酒は呑んでも呑まれてはいけません。私の趣味から言ってこの点は結構致命的であったので、ここでは4点とさせてください。

【後日評】

:だから何?と思いました。

:うーん、単純ですが意外と思いつかないようなストーリー性を帯びています。10点。

:5文字統一により音が揃っていて聞きやすい。内容はちょっと怖いけどこの思想を今後の人生でも継続してほしいと思った。

 

No.3...ワンピースは海賊版サイトで読むさんの作文

【当日の点数】

8ー6-8...22

【当日の講評】

:面白さと不快感が同じぐらい。悔しい。

:英語で始めるのはレギュレーション違反では。

:文字で読むより音で聞いたときの方が良かった。

【企画者評】

老若男女が行き交いする名大祭の会場で企画者が朗読すると知ってこの作文を認めたのだとすれば、作者は悪魔か悪魔の子か何かだと思います。しかしその一方で、作文の構成的な部分に関しては、悔しいですが結構自分の趣味です。

まず前半3行について、ワンピースという国民的コミック/アニメのキャラクター名を借りながら、幼稚で最悪な欲望と悪意を遺憾なく露出させています。

ところが、4行目で断層が起こります。国民的コミックの一番代表的なセリフ、要するに一番浅いところを、突然日本語でブチ込んで来ます。3行続いてきたゴミカスストーリーが明示的に脱臼するのです。ここで堂々表明されることとは、この作文におけるワンピースとはせいぜい記号、指人形に過ぎないのであって、白目を剝きながらこの指人形を遊んでいる”狂人”がこの背後にいる、ということではないでしょうか。少なくとも私はそう感じました。

5行目の変態的で破滅的な終わり方も、この”狂人”が悪意や欲望に意図的に身を投げていること、あるいはそれらを弄んでいることの表れと捉えられるでしょう。1~3行目と比べて微妙に”引き”の描写になっているところも良いと思います。Pink Guyの楽曲を彷彿とさせました。

英語が微妙に拙いこと(かえって良さがありますが)、”Two”と”They”をそれぞれ「つ」「ぜ」として認められるか微妙であること、あとあまりに不快であることから、8点とさせてください。

【後日評】

:応募者名をフリにして作文でオとすのはずるいです。正確に言うと、その手法が使われていても作戦として受け入れられる作文もある中で、この作文はそういうケチをつけたくなってしまう腹の立つ文章です。
英語も作文次第では新しい試みとして受け入れられたはずですが、ただただ邪道をひた走るようにしか見えません。
3位になったのは、読み上げたときに「か」で突然空気が変わるというこの作文の特性がおもしろとして発揮されたのだと思います。そういう意味では賢い作戦でした。

:英語はレギュレーション違反なのではないかと思いましたが、それよりも面白さが優っているのでなんか許してしまいました。

:倫理的にアウトなので、とりあえず書いた人を地獄に落とします。
しかし、文字で見ると普通に胸糞ですが、読み上げた時は意外と面白いと感じてしまった自分がいて、そしてそんな自分が悔しいです。

:最低で最高。

 

No.4...力を抜くさんの作文

【当日の点数】

0-0-4...

【当日の講評】

:単純に気持ちが悪い。ふりゃあは恋愛とか特定の人に強い感情を抱かない。

:クソおもんな名大生の一番悪いところが出てる。

:シンプルに気持ち悪い。

【企画者評】

ふりゃ愛作文です。縦読みとのシナジーが得られる点は良いですが、この作文に関しては、個人的にふりゃあ×恋愛にシンプルに違和感があること、仮にそれに目をつぶるとしても、名大祭マスコットキャラが抱く愛にしてはちょっと重すぎるのではないかと感じられることから、あまり好印象ではないです(それに、シナジー狙いは時に下心と捉えられかねません。加えてふりゃあ偏愛は、Twitterの内輪ノリっぽい感じがしてしまいます。審査員の趣味の傾向からして、これらの点は酷評の嵐を免れ得ません)。ただ、愛の重さは十分表現されてると思います。

いや、愛が重すぎるのが寧ろ良いのかもしれません。「愛してるよ、ふりゃあ」と告白した狂人(作者)が存在することは示されていますが、作文は全てふりゃあの言葉から成っています。ふりゃあ愛でおかしくなった人間の妄想作文として見るなら、なかなか良い気がしてきました。

ですが、それはあくまで2周目の理解なので、もしそれが本懐であればより明示的に表現するべきであったかもしれません。点数としては3点くらいにさせてください。

【後日評】

:クソキモ名大生の一番悪いところが出ています。

:きもい。0点。

:審査員からは不評でしたが、こういうSSめいたものも出来るのは普通に面白い発見だと思います。

 

No.5...ふりゃあの「腐」の部分さんの作文

【当日の点数】

0-1-0...

【当日の講評】

:気持ち悪い。

:情けで1点。

:仕方ないが、前の人と被っていた。「ぜ」の使い方が気にくわなかった。

【企画者評】

またしてもふりゃ愛作文ですが、今度はふりゃあの言葉ではなくふりゃあ狂の愛の独白から成る作文です(先ほども書きましたが、縦読みとのシナジー狙いは時に下心と捉えられかねません。加えてふりゃあ偏愛は、Twitterの内輪ノリっぽい感じがしてしまいます。審査員の趣味の傾向からして、これらの点は酷評の嵐を免れ得ないでしょう)。

前述の点からやはりそれほど好印象ではなかったのですが、「ぜ」の行でのイニシャルの使い方に対する驚きは正直その悪印象を凌駕するものがありました。イニシャルを強意に利用する方法のことです。それはあくまでアクロバットで、賛否の分かれるところだと思いますが、今回に関しては下ぶくれになってる作文の後半のダレた感じを解消するように働いているように思え、結構効果的だったと思います。過去の研究会では「型破りには相応の技量が要求される」という意見がありましたが、これは成功の部類だと思います。

それはそれとして、ふりゃあへの愛の言葉に関してですが、かなり身体的・物理的な方向に偏っている感じがして、かなり不気味でした。当日言われた気持ち悪さというのは専らこのことではないでしょうか。個人的にはもっとプラトニックな感じの愛の方がふりゃあに似つかわしい感じがします。他方で、そのような表現であることでふりゃあのシルエットを思い浮かべやすくなっている点は良いと思いました。

ともあれ、少々辛いですが4点とさせてください。

【後日評】

:クソキモ名大生の一番悪いところが出ています。

:きもい。0点。ただ、「ぜ」の特殊性はある程度評価。

:文の長さによる力加減がシンプルに下手だと思います。唐突に「ぜ」が文中なのもフリが無くて、ウケない一発ギャグのように浮いています。

 

No.6...イノシカさんの作文

【当日の点数】

7-7-6...20

【当日の講評】

:0点にしようかと思ったが、聞いてみたら面白かった。

:「税務署職員」が面白かった。

:面白かった。

【企画者評】

今回最も物議を醸した作文です。ひとまずこういう作文もアリという立場に立たなければ良し悪しを考えることさえできないので、とりあえずアリだとしましょう。

用意されている答えを俯瞰してみると、その周到さも相まって、全体的に嘲笑的な印象を受けます。そもそも心理テスト風の形式を取っていること自体もそうです。それに、反則スレスレの作文を繰り出してくるところもやはり嘲笑的で斜に構えた感じがあります。お薦めの芸術作品として「河原温さんの『Today』シリーズ」を挙げているだけのことはあります*2

あらゆる点において嘲笑的、そして同時に挑戦的な作文です。挑戦的であることもそうですが、その抜かりなさに感銘を受けました。

ですがやはり外道ですし邪道です。点数をつけるのにはそれなりの覚悟が要ります。その点を踏まえた上で、ここでは3点とさせてください。

【後日評】

:あいうえお作文に分岐という概念を持ち込んだことは評価に値すると思います。また、実際に会場で読み上げた時に字面よりも面白く、ライブに強いあいうえお作文だなと感じました。

:まぁ……個人的には好きです。あいうえお作文って、基本観客を擁して行うことはないので、そういう意味では今回のあいうえお作文コンテストだからこそできた試みともいえると思います。

:越権行為です。

 

No.7...メガケバブの対義語はミリトルコアイスさんの作文

【当日の点数】

3-2-9...14

【当日の講評】

:ないなと思った。

:ない。

:力技は好き。

【企画者評】

内容の奇妙さに気を取られて見逃しがちですが、(なぜか)地味に短歌になっています。全然脈絡のない文の間に微妙な秩序が存在しているのは滑稽です。

この作文で不名誉にも名前を挙げられている2人の巨漢ですが、字面の賑やかさの点で案外絶妙なチョイスなのではないかという気がします。既に過去の研究会では、あいうえお作文のレイアウトデザインの評価の可能性が示されています。

また「あるのかな」「マツコ・デラ」、「カット禁止の」「全裸プロレス」あたりの音やイントネーションが対応していて、妙に読みやすいです。

感想としては、「意外と凝ってて驚き」です。奇天烈作文は「合わせにいった感」との戦いを余儀なくされることが過去の研究会で明らかになっていますが、微妙なセンスというか技術というかによってうまくかわされているのではないでしょうか。

ですが、正直やや展開、広がりに欠く感じが否めません。点数としては辛いですが6点でお願いします。

【後日評】

:文字数、展開ともに綺麗に調整されていてとても面白いです。これが入賞しないのは不思議すぎます。審査員は何をやってるんでしょうか。かくいう私もあの日、この作文をサラッとスルーしてしまっていました。なぜでしょう。
「あまねかぜ」なら猫ひろしが使えたので優勝できていたはずです。

:パワー系が好きなので高得点。全裸プロレスがオチにきてる感じもGOOD。

:ないだろ、と思ってしまいました。

:意味が分からないのでマイナス5万点です。

 

No.8...みちながさんの作文

【当日の点数】

8-7-10...25

【当日の評価】

:ワクワクした。

:オーソドックスながら、シュールな世界観とオチがある。

:前と後ろにオチがあるのが斬新。

【企画者評】

1行目で一撃かまし、それ以降でその余韻を抜いていくスタイルはかなりテクニカルだと思いますし、今回に関しては類例がありません。2~4行目のかしこまってグダついた感じは、「あんぱんレオパレス」の切れ味を際立たせています。

個人的に惜しいと思うのは、「あ」~「か」が面白過ぎて、「ぜ」のユーモアが相対的に弱くなってしまっていることです。最大の一撃を頭に持って来ている以上、これはテクニックの代償とも言えるかもしれません(ただ「ぜ」も、その脱力感はかなり好印象です)。

とはいえ、それはせいぜい良さの中の悪さです。9点でお願いします。

【後日評】

:オーソドックスな形でありながらシュールな世界観を構築しており、素直に完成度が高いなと思いました。

:うーん…これも文字だと全然面白くないですが、読み上げるのを聞いた時は意外と面白かったんだよなぁ…10点。

:オチが最初にきてる高度な作文。また最後も大オチとして完成されているところも高得点。また意味不明な世界観の中にも作文として成立させているのもナイス。

:「全然アリとか来ますけどね、」で急に距離を詰めてくる感じが絶妙に嫌でおもしろいです。言葉遣いによる変化もさることながら、あんぱんレオパレスというちょっぴりファンタジーからのアリという現実へ急転直下する落差も意味上の大きな展開を生んでいます。一見変化球に見えて「最後の段でオチれば勝ち」というセオリーをきっちり守った直球勝負のおもしろです。

(「現実へ急転直下」、めっちゃ納得しちゃいました...企画者)

 

No.9...バレンタインのチョコ食べてくれましたか?さんの作文

【当日の点数】

2-8-5...15

【当日の評価】

:怖すぎた。怖いのが嫌い。

:あいうえお作文で面白いとつまらない以外の感情を乗せられることに感動。

:全体的にまとまっていた。

【企画者評】

文はほどほどに長いですが、リズミカルな作文だと感じました。前3/後2の構成で、前3の中にも展開があり、後2にも時間的・情緒的な順序が存在するあたり、内容の穏やかならざる感じとは対照的に丁寧さが垣間見えます。

内容についても、特別強い言葉を使うことなしに強い感情を表現している点が好印象です。このために、聞く者には忍び寄ってくるような恐怖感を与えるでしょう。

さながら丁寧に作られた凶器です。減点する点がほとんど見当たらないのですが、10点とするにはもう少し飛び道具が欲しかったかもしれません。9点でお願いします。

【後日評】

:なんかちょっと怖いかも。文章としての構成は好きです。

:怖いので0点。

:「あいうえお部分に合わせにいった」感も少なく、ちょっとずつ景色が見える綺麗なあいうえお作文なのですが、文字数の比重が後半に寄りすぎているのが「あいうえお部分に振り回された」という印象に結びつきました。最後につじつまを合わせたような感じ。

 

No.10...ピラスルさんの作文

【当日の点数】

9-5-2...16

【当日の評価】

:「あいしてる」あたりは普通だと思ったが、後半はシンプルさが心を揺さぶってくる。

:「全然泣いてないし」が色々な内容を想起させる。

:恋愛系が好きではない。

【企画者評】

すみません、あまり良さが分かりませんでした。

細かいことですが、「解答」は「回答」ではないですか?「町」も、なんとなく「街」の方が良い気がするのですが、どうでしょう。また、「あいしてる」と「付き合ってください」のかしこまる度合いの違いも気になってしまいます(後者は定型文なのかもしれませんが)。シンプルな作文においては細部の違和感が評価に大きく影響するということは、過去の研究会でも指摘されています。

他方で、「町で一目見たときから」「全然泣いてないし」のあたりからは、作文では語られていないこれまでの経緯的なものが想像され、奥行きを感じます。ですがそれも、特別驚きや裏切りを伴うものではありません。恋愛系はそもそも奥行きが生まれやすいテーマだと思うので、もっと非情緒的な言葉を情緒的に使うなどして、並みの奥行きに甘んずることなく、これが凡百のラブストーリーではないことを強調するべきだったと思います。すみませんが2点とさせてください。

【後日評】

:「解答ごめん」について、一瞬「?」となってしまったので、「解答:ごめん」のように「相手からの返答がごめんだった」ということが分かるように工夫していただけたらなおよかったと思います。

:今見返すと、この短文の中に切ないストーリーを作り上げてる部分に高評価。

:「全然泣いてないし」に失恋にまつわる情報が無限に含まれています。是非俳句とか書いてほしいです。

:当日のなんすいさんのコメントと同じように「あいしてる」の安直さがむしろ「解答ごめん」「全然泣いてないし」で世界観として回収されていて良いと感じました。
こういう他に無い世界観を持つ作文が一つあると、作品全体のバリエーションが豊かになっていいですね。いろんな人の作文が見られる感じがします。もし狙ってやってたらすごいです。

 

No.11...シンブルさんの作文

【当日の点数】

9-8-10...27点(1位

【当日の評価】

:脈絡はないが、組み合わせが面白い。

:(聞き取り不能

:パワー系が好き。(以降聞き取り不能

【企画者評】

最近のポケモンを遊んだことがある人なら、マジカルシャインを聞いた段階でポケモンのわざを列挙していることに気づくでしょう。そして最後にポケモンの名前が発表される。最初の研究会では「A(Audio)系作文」「V(Visual)系作文」の概念が生み出されましたが、この作文は紛うことなきA系です。

私はプラチナ以降ろくにポケモンをやっていないので、このゼルネアスのわざラインナップはどうなのか正直よく分かりませんが、伝説のポケモンがからげんきを覚えているあたりは多分王道ではないのでしょう。その点が若干気になりますが、5行目に伝説のポケモンを持ってくるのはオチとしては良い感じなので、自分の中では辛うじて相殺されています。

簡潔な構造であることに加え、構造自体の面白さが相当にあることから、減点はほとんどないのですが、個人的にはどうしても淡泊に感じてしまうところがあります。オチとは別に、あるいは一緒に、濃淡や緩急も欲しい自分がいます。これが3文字ぐらいのあいうえお作文であれば、そんな贅沢は言いませんが。7点とさせてください。

【後日評】

ポケモン縛り構成。単語のパワーもあり非常に高得点。ゼルネアスが文章の最後に持ってくると単語として面白いことが判明した。

:一見何の脈絡もない言葉が最後に集約される気持ちよさみたいなのがありました。

:なんでこういう作文にしようとしたのか全く想像が付かないです。優勝作品だそうですが、完全に発想の勝利でしょう。
それはそれとして、これが優勝するのは完全に一周以上回ってます。どうかしてると思う。
一人ずつ点数を発表して合計するシステムが悪さをしたのかもしれませんね。特定の層を狙わずぼんやりシュールな作品、というのが今回の審査員には満遍なく刺さったのでしょう。

:これは、当日読み上げてくださったときはなかなか面白かったのですが、後々文面で見返してみると全然面白くないですね。

 

No.12...北里柴九郎さんの作文

【当日の点数】

4-2-9...15

【当日の評価】

:奇抜だが、奇抜なだけ。

:これが渾身の一作なのか?

:パワー系が好き。最後が好き。

【企画者評】

2周目の作文です。究極にミニマルなので必然的に「気持ち良い」に目がいくのですが、そうするとこの「気持ち良い」は、究極の断捨離を経て骨と皮と「気持ち良い」だけになった当作文について言われていることなのではないかという気がしてきます。それはもはや挑発的にも響きます。

1点です。そうでなければ0点です。この点数はあくまで作文のミニマリズムへの賛同です。

【後日評】

:108周回ってる作文。1文字に大きなパワーを感じた。

:一周回りすぎ。キショいです。

:これは…クソ回答ですね。マイナス5億点。

:こういう作文を一度ゆるしたらあいうえお作文界隈は廃れます。技術とか何もいらないんだから。こんなの。外患誘致罪くらい罪深い。しっかり低い点を付けてしっかり芽を摘みましょう。

 

No.13...さよなら人類さんの作文

【当日の点数】

2-5-7...14

【当日の評価】

:幻想的な感じだが、ちょっと恥ずかしい。

:(聞き取り不能

:文章も構成されているし、情景も思い浮かぶ。

【企画者評】

アポカリプスな作文です。対になった前半2行と、ダイナミックな後半3行のバランスが啓示っぽさを強めている感じがします。

この作文が終末のそれだとしたら、「つくられたまがいものたち」というのはおそらく被造物、特に人類ではないかと思うのですが、空の前置きを踏まえて言われる「かいかして ぜんせかいにひろがる」の生物的とも非生物的ともつかない表現がキモ過ぎます。ゼータファノマノンの作文でも同様のことが起こっていましたが、清潔感とキモさの親和的な結合を感じます。

ところで平仮名で統一されているので、後2行に関しても前3行のように和語を積極的に使ってもよかったのではないかと思いました。ですが漢語は漢語で、和語と並んだときになんとなく無機質な感じや遠近感が生まれてよいかもしれません。

ただ、ちょっと啓示過ぎるかもしれません。「具体性に欠く」なんてつまらないことは言いたくないですが、10点を出すのにはやや躊躇してしまいます。アポカリプス作文コンテストなら問答無用で優勝ですが、ここでは9点とさせてください。

【後日評】

:世界観が確立されてるいい文章。好きです。

:当日のこの作文はさほど高く評価されていませんでしたが、読み上げというシステムが完全に悪さをしました。ひらがなで飾ることによって「作文はうまいけど、ちょっと中二病かも……」という心のストッパーを作動させないようにしていたのに。飾りは見えなければ意味がありませんからね。
むしろ飾りを隠すことによって本質をズバリと突き止められたのではないか、という意見もあるかもしれませんが、「ぜんせかい」というワードチョイスがちょうどよく幼稚でひらがなとのシナジーを感じます。ただの飾りではなく、ちゃんと文字ありきのギミックが用意されていたということです。

:これは好きです。詩的で。100億点。

:なんかカッコつけててキモいなと思ってしまいました。

 

No.14...マイナンバーに紐付けられた別人の保険証(輪廻転生希望)さんの作文

【当日の点数】

6-2-1...

【当日の評価】

:「かさでら」がすごい良かったが、「ぜ」が不快だった。

:あいうえお作文の良いところは短い文章で頭を揃えてやるところ。長い文章をブチ込んだら何でもあり。

:あいうえお作文としては1点だが、自分の気持ちとしては100点。

【企画者評】

これ見よがしに発狂する感じはあんまり趣味ではないですが、「かさでら」での緊張と、それに続く「ぜりー食べたい...」の放出の感じは、EDM的な気持ち良さがあります。
また、3番出口とは名大駅のそれを言ってるのだと思いますが、その直後で「かさでら」にワープすることで、空間的な断絶と文脈の断絶、緊張が重なってこれを強化してる感じもあります。
また「ぜ」の戯言ラッシュですが、徐々に作者の地の声に転換していくことで、EDM的爆発の衝撃を漸減させていってるようにも感じました。わりと高度な技巧にも見えます。
とこう見てみると結構良い作文に思えますが、何にせよ文意や単語の連携が死にすぎているので、高得点をつけるのには少々やぶさかです。6点でお願いします。

【後日評】

:これも、読み上げるとなかなかに面白いです。ただ、当日の審査員評でもあったのですが、「ぜ」が少々長すぎますね。でも大分好きです。「募金したい~~」がなければなおよかったと思います。

:読み上げられたときはクソ面白かったのに、文で見るとなんともとっちらかっててまあひどいことこの上ない。でも、ひどすぎて良いと思います。これだけ散逸的な文章を書いているのに「合わせにいった感」がほぼ無くて無駄にうまさを感じます。

:読み上げの力も左右されるが、この作文には大きなパワー(もはやエネルギー)を感じた。「ぜ」の部分は長すぎると逆に「さらにどんなのがくるんだ」という期待感を感じることができることを学んだ。
しかしこれが作文がどうかは個人的に審議。

:正直とても好みなのです。が、審査するとなると「ぜ」の行の冗長さがネックで、各文をめちゃくちゃ長くすることを認めるともう何でもありになってしまう(あいうえお作文の崩壊)ので難しい。私はあいうえお作文界における調性の崩壊の瞬間を目の当たりにしているのかもしれません。

 

No.15...のぞみさんの作文

【当日の点数】

10-2-3...15

:「あまつかぜ」ってかっこいいイメージがあったが、そこにかわいい詩をつけるのはセンスがあると思った。

:↑の発言はかわいさに引っ張られすぎている。

:文が右から左に筒抜けていく。

【企画者評】

自分は「つかまえたら」の意味がいまいちピンとこず、あまり刺さりませんでした。
ですが、個人的に好印象だったのは1行目で、以降の夢のような内容が「朝起きた」後に生起している点が、夢と現が転倒している感じを与えています。マカロンという、ガーリーで親近感の湧かない食べ物の中という点もシナジーを生んでいます。
それが最終行で全部消えていることも、「ではこの人はどうなった/どうなるのか?」と不安を催すようで良いです。
また、4つの行が6文字で統一されていることも、均質な印象が夢のイメージとマッチしてるかもしれません。
ですが、やはり3行目がピンとこないのが個人的に致命的でした。4,5行目の「消」被りも微妙に気になります。5点でお願いします。

【後日評】

:かわいい。so cute.

:これ、何を捕まえたんでしょうかねぇ…そこの部分がミステリアスである種の恐怖感があり、恐ろしくも惹きつけられます。105億点。

:「マカロンの中にいた」から「つかまえたら」以降のが急展開すぎます。なんかメルヘンチックな世界観を描写したかったんでしょうが、置いてけぼりを喰らってしまいました。

:攻め方は悪くなかったですが、映像が浮かばないあるいは支離滅裂に振り切れていない所に頭文字の縛りの強さを感じてしまいます。読む人を歓迎するか、置いてけぼりにするか。このどちらかを徹底するのがあいうえお作文の鉄則なのではないでしょうか。
具体的に言うとシュールファンタジーの世界観で「マカロンの中にいた」は少し説明的で浮いて見えます。「マカロンの中」とするだけでまとまりが良くなると思います。
「朝起きたら」「つかまえたら」と「たら」が重なっているのも展開の前後関係を明示しすぎてしまって輪郭がはっきりしてしまうため、世界観に合いません。読んだ時のリズムがつっかかってしまうという悪い副産物もあります。「つかまえて」くらいにした方がいいと思います。
文字数がそろっているため展開の振れ幅が小さいですが、それはむしろ世界観と合っていてとても良いと思います。

 

No.16...トリアージの肉さんの作文

【当日の点数】

5-8-8...21

【当日の評価】

:バトルものに疎いのであんまり分からなかった。

:90年代少年漫画的な世界観の中で出てくるぜんまい式ヤンニョムヨセミテハリケーンの微妙なスカし方が好き。

:(聞き取り不能

【企画者評】

過去の研究会で同じコメントをしたことがありますが、漫画のような作文です(コマが見えます)。そう思わせる一つの要因が、語り手が複数いることだと思います。
この作文の高度なところは、音、意味、語り手、語り方...のような複数の違う要素が複合的に作文の緩急を生んでいるところだと思います。ナレーション風の1行目は静的で、2行目から滑り出し、3行目で何者かによって発破をかけられ、4行目で踏み切り、5行目で回転+上昇運動によって跳躍する。特に5行目の謎必殺技は「よく分からないけどなんか分かる」絶妙なワードチョイスだと思います(音が特に秀逸だと思います)。合わせにいった感もほとんど感じません。まさしく手練れです。
しかし、この謎必殺技は同時にやや読者を振り切ってる感が否めず、余韻というよりか消化不良な感じで終わってしまいる気もします。ここでは8点とさせてください。

【後日評】

:バトル漫画風の力強い文章の流れと、最後のオチで意味不明な必殺技を繰り出すという、作文全体として非常に高度かつパワーを感じたので高得点。

:好きですねぇ…ただ、「ヤンニョムヨセミテハリケーーーーン」の字面がすごくきもくて吐き気がしてきました。もう少し何とかならなかったんでしょうか。なんやねんヤンニョムヨセミテハリケーンって。

 

No.17...就活拒否さんの作文

【当日の点数】

4-8-9...21

【当日の評価】

:面白かったが、「ぜ」のオチはもう少し頑張れた。

:あいうえお作文の読み上げると次の文が予想できないという性質をうまく利用していた。

:(聞き取り不能

【企画者評】

広告とかでしばしば見られる薄ら寒いビジネス方言(?)を皮肉った感じの文章が愉快です。

リズミカルな4行の後の「ぜひ、続きはWebで!」は、この続きを予感させるとともにビジネススマイルの裏の悪意みたいなものを感じさせ、シンプルな作文に奥行きを生んでいます。

敢えてあら探しをするなら、「つ」の行がやや物足りない感じがしました。それと、この作文のシンプルさは勿論その良さなのですが、個人的にはやや物足りなさを感じてしまいます。8点でお願いします。

【後日評】

:最悪すぎて最高なんですが、「ぜひ」の合わせ感は否めません。

:「強い」「会社」「育てる」を漢字ではなくひらがなで表記しているのがそそられます。それはそれとして、この作品について当日の審査員評である「ぜ」はもっとひねれたのではないかという意見がありましたが、個人的には「続きはWebで」という風に、ここで完結せず続きをほのめかす終わり方が「マジモン感」を出していて好きです。ああ、もしかしたら本当に、どこかで続きが掲載されている世界線があるのかもしれない、というように想像の余地が広がります。ミロのヴィーナスが美しいのは、腕がないからだ、腕がないことでかえって無数の美しい腕の存在を想像し得るからだという話を中学か高校の教科書で読みましたが、それを彷彿とさせるものがあります。続きをほのめかすことで、そしてそれを文章内で完結させないことであえて受信者に想像の余地を与えるのです。これは、上手い小説家なり映画監督なりが無意識のうちにやっていることで、これの巧拙によってその作品が上手いかどうかが決まるといっても過言ではないくらいです。「千と千尋の神隠し」なんかもそうです。一体湯屋とはなんなのか? ハクとはなんなのか? 千尋とハクはもう会えないのか? 坊って誰? 結局あの世界ってなんだったの?…こういう疑問について、突っ込もうと思えばいくらでも突っ込めます。映画で語ることができます。しかし、あえてそこを語らない。受けての想像に任せる。これ、簡単なようで凄く難しいことです。下手な奴がやると、ただの説明不足のオワコン映画になりかねませんからね。かといって、説明しすぎるとものすごく単調なものになってしまう。どこまでを描き、どこまでを受け手に任せるかというのが映画監督なり、例では出しませんでしたが小説家なりの腕にかかっているのです。まあ、映画監督や小説家に限らず、全ての芸術家に当てはまることですが……なんの話をしていたんでしたっけ?あいうえお作文からとんでもないところに飛躍してしまいました。とりあえず、この作文は100点。

:フリップネタとかで見てみたい。

:この企業には就職したくないなと思いました。

 

No.18...くいしんぼさんの作文

【当日の点数】

8-8-5...21

【当日の評価】

:共感した。

:今まさにその気分なので。

:(聞き取り不能

【企画者評】

はじめは特に何とも思いませんでしたが、「不味くて」が与える印象が作文全体に個性を生んでいる感じがしました。「甘くて不味くてつるんとしたものが是が非でも食べたい」という表白からは、鬱々として疲弊した感じがそれと言うことなく伝わってきます。「是が非でも」の切羽詰まった感じもこれを助けています。
ただ個人的に気になったのは、「つるんとした感触のものが」に2行使ってしまっているところが、先立つ2行と非対称的になってしまっているところです。それと、作文が雰囲気に傾斜し過ぎかもしれません。6点でお願いします。

【後日評】

:言葉運びや文字数の変化によって次の文字、次の文字と期待感を持たせつつもつるんとした感触があり、とても上手い作品です。

:是が非でもなんだ。自己が強いな。いいね。

:食べてください。ぜひとも。

 

No.19...シラスミッドさんの作文

【当日の点数】

1-3-4...

【当日の評価】

:「絶起」が非常に不快。

:「だから何?」と思った。

:文章としてはとりあえず良い。

【企画者評】

平均未満大学生のダルい日常の雰囲気がなんとなく嫌悪感を催しますが、内容と文体がガッツリ一致している感じがして、あいうえお作文としてはそれほど悪くない気がしました。時間感覚のボケが通じて表現されてるところも好意的に映ります。
また、「あ」〜「か」はゴミ大学生の寝ぼけたつぶやき風ですが、「ぜ」だけナレーションの趣があり、意外とオチてるのかもと思われます。体言止めになっていることも、これをオチたらしめる一因かもしれません。

そのように上手いなとは思う一方で、驚きはあまり無かったかもという印象です。やや辛いですが5点でお願いします。

【後日評】

:そうだね、と思いました。

:短文による構成がテーマと合致しており世界観のまとまりは非常に良いのですが、ぼくはこういう大学生然とした視点がクソ嫌いなので低評価です。

:大学生すぎて寧ろいいかも。

:この作文は他の作品に比べてとてもあっさりしていて、曲者ぞろいの作品が多くあるためにこのあっさり具合が逆に好きだったんですが、当日の審査員の方々が思ったより辛口の点数をつけていたので悲しかったです。

 

No.20...にんげんさんの作文

(当日朝の応募だったため、見逃してしまい発表できませんでした。すみません。)

【企画者評】

「つのような」がよく分かりませんでした。ひらがなの「つ」のような、ということでしょうか?仮にそうだとしたら、あまり比喩が成功していない気がします(ですが、あいうえお作文においてイニシャルのひらがな自体に言及するのはとても面白いです)。
でしたが、あんぱんの形状と光沢を強調したあとで「ぜったいうまい」と言っているあたりに、幼げな言葉遣いも相まって非現実的な雰囲気が生まれ面白いです。これまでも何度か同じ指摘をしましたが、各行が均質であることもこの効果を生んでいると思います

とはいえ、1行が意味不明なのは正直致命的です。3点でお願いします。

【後日評】

:「ぜ」が惜しいですね。それまでは可愛かったのに、なんだか「ぜ」で一気に下品になりました。

:つってかがやいてるんですか?

 たしかに。

:わかる。うまいよね。

:あんぱんはそんなに美味しくないと思います。

 

審査員作文

若干コメントに贔屓が入ってるかもしれませんが、特にそれでコメント主にメリットがあるわけではないので気にしないでください。

安田の作文

【関係者評】

:常人には分かりかねます。

:見事なゼウスエクス・マキナギリシア演劇を観ているかのようなあいうえお作文でした。

:審査会から少しもブレてない体幹の強さに感動しました。
この作文は、「ぜ」がゼウスでなかったら壊滅していたと思います。しかしそれがゼウスであることによって、作文がそのカオスを攻撃力へと転じている感があります。マジで奇妙な作文です。
1行目でアジフライがかまされますが、2行目は全然関係ない硬直した何かです。かと思えば、3行目では謎にボケてみせて突然脱臼します。当然意味不明です。
4行目ではカラスミパスタが繰り出され、アジフライの再来かと思わせます。それがもしそうだとすれば、1〜3行目は言わば茶番なわけです。
ところが5行目に繰り出されたのは、まさかの全能の神です。これまでの間延びしたカオスを、単語のパワーによって強制終了させています。また「ゼウス」のパワーは、前4行のスケール感を前提した上で来ないと炸裂しなかったと思いますし、徹底的に文脈が崩壊しているからはじめて成立するとも思います(純粋に単語単体の威力が発揮される)。

そこいらの自惚れたヌルいシュール作文は青ざめてるのではないでしょうか。

:「つったかた~」はそれはもう、最高です。
カラスミパスタの」の続きとして7文字程度の服飾品を求めてしまう習性をフースーヤによって植え付けられているので、「ゼウス」はちょっと物足りなくなってしまいました。でもそれはそれで残響感を覚えさせるいい演出になってるかもしれません。「暮しガスメータ」の最後みたい。

 

藤田の作文

【関係者評】

:私の作文です。会心の作なので、ズルですが脚注で解説させてください*3

:あまりにも荒唐無稽な世界観なんですが、最後の終点アナウンスでエモさが爆発してしまい、なんだか名文に見えてきました。

:これは…すごい。「次は終点 名古屋 名古屋です。」が本当にうまく効いている。「ま」「つ」「か」と「Zepp Nagoya グローバルゲート」は全部車窓の光景なんだろうなぁ…。
これ、先ほどの「続きはWebで」の作文で長々と語ったことと同じことがこの作文にも言えるんですよ。「マンドラゴラ摘み」って何!?「兵どもが エルドラド」って何!?とかいくらでも突っ込めるじゃないですか。でも、ここではそれが何か語られない。それでいい。それでいいんです。これらの概念は、言葉として美しいのであって、これに長々と現実的な説明をすると夢から醒めてしまう。この絶妙な言葉選びによって成り立っている絶妙な世界観は、もはや芸術の域に達しています。これ、本当に難しいんですよ。どこまで描き、どこまでを受信者に任せるか。それも世界観を保ちつつ……。しかもリズムも完璧ときている。先ほどまでの作文が全部お遊びに思えてくるほどの出来です。完敗に乾杯。

:もう何週もあいうえお作文の世界をグルグル回っちゃってます。イッツ・ア・スモールワールドここに極まれり。
パワーにパワーを重ねた後に最後は「終点」で無理やりオチっぽくまとめる、という荒々しさが目立つ作品ですが、「兵どもが エルドラド」のようなパワー単体で見たときの精度が高く、「『あれに見えるは』→『マンドラゴラ摘み』」「『この道ずっとゆけば』→『Zepp Nagoya』」という展開っぽい視点の移動が用意されていて、繊細さを内に秘めた高度な作品です。
とくに後者の視点の移動に関しては展開っぽくなってるんだけど向かう先がとんでもない場所になっているという、どこでもドアで冒険に出ようとしたら出た先がブタゴリラのお風呂シーンみたいな裏切りも裏切りのつくりになっていて、突拍子もなさすぎるがために実際には展開としてあまり成立していません。しかし、「場面転換」を示す言葉遣いのマーカーが付いているせいで読む人は「これは展開だ」と認識してしまうので、成立しないはずなのに機能しています。圧縮言語のようなギミックです。
このように、一撃を強くたくさん打ち込むために、流れの部分でレベルの高い工夫があります。それ以外に文字数の配分なども抜群によく、作者の奇をてらうだけでないバランス感覚の良さが伺い知れます。伊達にコンテストを開いていないということでしょうか。

 

なんすいの作文

【関係者評】

:文学的な作文から、急降下(あるいは急上昇)して絶対女の子を取り入れてる儚さに高得点。

:これ、好きなんだよなぁ~。「有明の静かの海は」が割と才能じゃないですか? 日本文学研究室に所属し和歌だの源氏物語だのをやらされましたが、この一文は出てこない。完敗です。

:「『有明の』—『月』」「『有明の(夜明けの)』—『カラス』」「『有明』—『海』」「『月』—『静かの海』」のように、縁語や連想でガチガチに固い意味の結びつきをこの文章量で構成していて、めちゃくちゃ作り込まれています。一方文章全体ではバラバラな詩の一節を寄せ集めたかのような唐突さがあるのですが、先に言った通りパーツ同士はガチガチにつながってるので、まるでモビールのように一つの世界を表現できています。
これはあいうえお作文の段ごとに文章がどうしても途切れてしまう性質を逆手に取った表現になっていて、新しい可能性を感じさせる一作です。これに「ギャグマンガのお腹だった」とかいって10点中6点を付けたあの日の自分をぶん殴りたい。
そんな中で最後あまりにもでたらめに投げられた「絶対女の子」をどう受け止めるかは我々にゆだねられています。ぼくはバチバチにキメすぎた後のきまりの悪さに、作者が耐えかねて降りているのだと捉えました。それは作者の悪いところとも、持ち味とも言えるはずです。

:平凡な感想ですが、なにより文才が光ってると思います。文学部にも関わらず小ボケを小出しして悦に入ってる自分が恥ずかしくなりました。

どこまで読めているか自信のないところがありますが、1~3行目の淑やかで詩的な擬人的情景、4行目の(考えようによっては自己言及的な)描写が、「絶対女の子」によって翻ってライトアップされ、表情を変じているように感じました。

街、(=)人間界を超越した存在である海と月が神秘的な時空間の中にあるさま、またカラスが文学という(ある意味)非現実的な世界と関係するさまを「女の子」になぞらえることで、それらをただ崇高なだけでない、崇高にして卑近という微妙な距離感に留め置いている気がします。またそれと同時に、「女の子」という言葉自体も俄然神秘的でミステリアスな趣を帯びてきます。これに先立つ「絶対」という言葉も、この遠さと近さの渾然とした妙な距離感の生成に加担している感じがします。

また、海や月、街といった引きの描写からカラスという寄りの描写へ転じていることも、オチのフィット感を高めていると思います。

とにかく、淑やかにしてガーリーというのが自分の感想です。現代詩手帳とかに載ってても全然違和感ありません。どうして「マツコ・デラックスつのだ☆ひろの全裸プロレス」と同じ土俵に上がっているのでしょうか。

:しゃらくせえな、と思いました。

 

(『月』—『静かの海』の繋がりは気づきませんでした。これを踏まえると、『カラス』も相まって明らかに作文全体に地上を絶した感じが充溢する感じがします。これ、宇宙ですね...企画者)

 

 

 

 

*1:造語じゃなかったら、上の文言は全て撤回します。

*2:たまたま豊田市美術館で見たことがあります。

*3:1行目は、伝わるか微妙ですが文部省唱歌「茶摘み」の一節です。2行目は、それがそうなら「茶摘みじゃないか」と続くのですが、ここでは突然変異を起こしています。

3行目は有名な松尾芭蕉の句かと思えば、やはり突然変異を起こしています。

4行目は、ジブリの「耳をすませば」の主題歌である「カントリーロード」のサビです。それがそうなら、5行目には「あの街に続いてる気がする...」と続きます。

そして5行目ですが、ちゃんと「あの街」に続きます。ささしまライブ、名古屋です。JRか近鉄名鉄か分かりませんが、電車が名古屋に到着します。

これは、初夏の突然変異した伝統的風景から、ノスタルジーのトンネルを通って現実に帰ってくる作文です。時間・空間・リアリティの3つの点で旅です。かなり独りよがりな感じがしますが。