大学生の自由帳

ペンギンパニックとエノキ工場の香り

繰り返せ!畳バトル!

4月某日、ある企画を終えたぼくとメンバーの藤田。

特にすることもなく、手持ち無沙汰になった二人。どことなく漂う不完全燃焼感に堪えかねて、ぼくは口を開いた。

 

「せっかくなら何かやりません?……ほら、『畳バトル』とか。」

畳バトル

ずいぶんと前に藤田が提案した企画。

畳語と呼ばれる「飛び飛び」「行くところ行くところ」「時々」のような同じ言葉の繰り返し語を新たに創作し、良い方が勝つというバトルだ。単純明快。

 

面白さがあまりにも未知数だったので「いつかやりたい」という雰囲気のままずっと放置されていた。

せっかくなら暇なときに掘り起こそう。いや、むしろ暇でもなければこんなことはできない。

 

特別断るような理由もなく、提案は即承諾された。

こうして今、「畳バトル」の試運転がぬるりと始まった!!!

 


 

Let's TATAMI !!!!!!!!!

 

じゃんけんの結果、藤田が先行に。

そもそも畳バトルってターン制だったんだ。

 

1ターン目

藤田は早速筆を動かし、「これ最初から結構むずかしいですね……」と少し悩みつつも速やかに回答をまとめあげる。

目 目

「👁 👁」……!

いきなりテクニカルな答えを出されてしまった。畳語で画像の浮かぶ表現をされるとは。

初手からしてやられたが、とはいえまだジャブの範疇。巻き返しは可能だ。

 

ぼくは相手が悩む隙に書き上げていた答えをオープンする。

ねるね ねるね

「うわーっ!『ねるね ねるね』か!あのねるねが!!」

ねるね

何故か藤田には効いている。どうやら有効な答えだったようだ。

 

「ちょっと『目 目』は素直に行きすぎたな。若干後悔してます。」

 

本当に何でか分からないぐらい効いている。

 

「でもまだ負けって感じではないですね……。」

 

しかし土俵際で踏みとどまったようだ。

ところでこのバトルはどうやって勝敗を決めるのだろう。この場に二人だけだから審判居ないけど。

 

「やっぱり本人が『負け』って思ったらじゃないですか……?」

 

要は相手の心を折ったら勝ちということ。思ってたよりもヤバいバトルに手を出してしまった。

 

ヤバいというのは、心を折らなくてはいけない事ではない。

藤田が仮にここで「ねるねる ねるねる」などと自信満々に回答するような不埒な男だった場合、バトルが成立しなくなってしまうだろう。

そんな人、自分が負けたって思いようが無いから。無敵だから。

 

お互いが勝ちに向かいながらもクリーンな気持ちで挑まなくてはいけない。

畳バトル、紳士のスポーツだったのか……。

 

2ターン目

ごちゃごちゃ言っていたら藤田が回答を書き終えた。

 

T字路丁字路?丁字路T字路……?

 

「あっこれ『T字路T字路』です。」

 

T字路T字路!!!!

一瞬T字路と丁字路をならベて書いたのかと本気で錯覚させられた。

二つ並んでる時って普通違うものが書いてあるけど、今回は同じなのか。畳バトルだから。

 

人間の心理を絶妙に突いたトリックTATAMI。なかなか秀逸だ。

「ねるねる ねるねる」という杞憂は失礼すぎる妄想だった。

 

これはさっきの「ねるね ねるね」によるラッキーパンチの分を大分巻き返されてしまったと考えて良いだろう。

 

次の回答はかなり重要だ。せめてこのまま藤田に逆転されることは防がなくては……!

 

これだ!

チャンバラ チャンバラ

重圧に負けて窮屈なTATAMIを出してしまったような気がする。

とはいえ藤田の表情を伺ってみると、勝ちを確信してはいなさそう。むしろ反応は芳しい気がする。

まだ比較的良いTATAMIを出せたようだ。

 

2ターン目は伸び伸びとした藤田の回答に気圧され、微差でリードを許してしまう展開となった。

いや、本当にそうなのかは知らないけど。少なくともぼくの中ではそういうことになっていた。

 

このゲーム、今どういう状況なのか分からなさすぎる。

そういう現実のバトルみたいな嫌なリアルさは一番いらないのに。

 

3ターン目

回答は止まらない……!

まわれ右 まわれ右

”一周”を表現している。

さっきからこの人は「同じ言葉の繰り返しだけで言葉の直接の意味から遠い物事を表現する」のが何でこんなに上手いんだ。

 

これに対抗するには、もうこうするしかない。

ちょく ちょく

「目 目」へのアンサーTATAMIを決行。

しかしアンサーするには巡目が少し遅かったようで、あまり効果的ではなかったかもしれない。

 

とまあちゃんと分析すればちゃんとこっちが劣勢なように思えるけど、別に場の雰囲気ではそんなに負けてる感じがしない。

というのも藤田がひねりを入れた「意味のTATAMI」を出すのに対して、ぼくはくり返しを活かした「勢いのTATAMI」を出しているので完全に方向性がすれ違ってしまっている。

 

お互いの趣味の違いをお互いが感じている。

そして、決してお互いの趣味を見下したりはしない。

我々は多様性を認めることのできる賢い学生だったのだ。

 

4ターン目

「いやー、どうしような……」

 

藤田が今度こそ本当に悩みながら答えを出した。

1リットル 1リットル

これまでのテクニックを全て捨てて、シンプルさで殴りかかってきた。

 

ぼくもすぐさまTATAMI返しをする。

きりきり舞い きりきり舞い

………………。

 

 

 

「次ラストターンにしませんか?多分これキリ無いですよ。」

 

「本当にそうですね……。」

 

お互いの回答にあまり差が付かず……いや、別に差はあるんだろうけど、評価軸によって容易に覆るほどの差しか感じない。

それも”負け”を自覚するほどの差なんて、あまり感じそうにもない。

 

畳バトルの底知れなさを感じた我々は、意を決して勝負を無理やり終わらせにかかった。

 

5ターン目(ラストターン!)

最後の回答だけど、藤田はあまり気負わない様子で出した。

普通列車 普通列車

「あーっ!庶民の電車ですね。二両編成の。(なぜか「普通車両 普通車両」と勘違いしている)」

 

「いや、これは駅に”普通”が連続して来ています。急行が来ない。」

 

駅のもどかしい時間を表したTATAMIだった。

説明させてしまうという罪深い行為により、ぼくは若干の負い目を勝手に感じることになった。

 

審判不在の畳バトルでは、こうして合間の会話で相手にプレッシャーをかけるのが重要なのかもしれない。

早く負けを認めてもらうには話術も必要ということか。盤外戦術に気付いてしまった。

 

気を取り直して、泣いても笑っても最後のTATAMIを出した。

泣く泣くいななく 泣く泣くいななく

「早口言葉のサンプリングじゃないですか。」

 

「早口言葉のサンプリングです。」

 


 

こうして初めての畳バトルをやり切ったぼくたちは、そのまま勝敗を決めた。

 

結果は…………

 

 



「お互い勝った気も負けた気もしませんでしたね。」

 

「これで勝っても……って感じでしたね。」

 

今思えば「T字路 T字路」を始め、テクニカルさで大きくリードした藤田の勝利とすべきだったような気もしなくはないが、その場にいた二人は引き分けで全く納得してしまっていた。

もし審判がいたらぼくの負けだったかもしれない。いや、結局それも審判の趣味次第か。

 

とにかく「”負け”と思った方が負け」システムはほとんど決着が付かない!という当たり前のことが分かった。

 

皆さんがもし畳バトルをやりたい時は、審判も用意することを強くおすすめします。

それか、二人だけでも24時間ぐらいやれば勝負が決まるかも。