あらすじ
前回「モンスター ウルトラ」とは「モンスター 風邪をひいたスポドリ」だと看破し、見事再命名を果たした大学生の自由研究メンバーたち。
調子に乗った彼らは、その勢いのまま次なるフレーバー「パイプラインパンチ」の再命名へ挑んだのだが……。
2回目の再命名、開始!
…………。
失敗しました。
想像しただろうか。この「名前を新しく付けるだけの企画」に失敗が存在することを。
この失敗を、そしてパイプラインパンチを買った230円を無駄にはできないので、今回は失敗から学んだ再命名の大事なポイントを紹介したいと思う。
我々はこのようにして失敗した
さて、パイプラインパンチを口にした我々が行った命名を以下に抜粋する。
・原罪を負っていないトマト
・エデントマトの工場
・花見で一杯
・春一番
・晩春のクーラー
こうした命名が飛び交う中、どれもピンとくることは無く……やがて、終わりが訪れる。
モンスターが無くなってしまった。
予想だにしなかったリミットの存在。
我々は悔しさを胸にリベンジを誓うことになった……。
パイプラインパンチ命名2回目、開始!
日を改めた我々は再びモンスター再命名に挑んだ。
しかし、前回は4人いた参加者が今回は藤田と二ツ島の2人。
戦力的に不安がある中、命名を切り拓いていく……。
前回の反省
二ツ島「とりあえず前回なぜダメだったのか考えましょう。まずこの『原罪を背負っていないトマト』と『エデントマトの工場』。」
藤田「どことなくトマトの味がしたんですが、特有の青臭さが無かったので『浄化』『無生物』というイメージを込めたんですよね。今思えば『トマト』が決め手に欠けた気はしますね……。」
「確かに『トマト』がピンと来なかったのはそうなんですが、問題はもっと別だと思ってます。」
そう、喩えとしてトマトが合っていなかったのは結果論でしかない。原因はもっと根深いところにある…………
「普通に考えて『原罪を背負ったトマト』『エデントマト』って何のことか分かんなくないですか……?」
「……!!!言われてみれば。味→名前という方向に決めたんですが、名前→味と逆向きにたどることが出来なくなってます。」
「そうです。別の表現で言うと、命名から味への還元が出来なくなってるんですね。」
「『花見で一杯』『春一番』『晩春のクーラー』もきっと同じ原因でしょう。」
「間違いないと思います。あとその辺の後半に出てきた命名に関しては迷走しすぎた感もあります。」
「時間をかければかけるほど議論は煮詰まるんですが、そうすると逆に第一感から離れすぎて不自然になるジレンマがありますね……。」
再命名リベンジ!
失敗を踏まえ、再命名の新たな一歩を踏み出す藤田と二ツ島。
藤田「改めて飲んでみると、トマトって感じ全然しないですね……。」
二ツ島「飲むときのコンディションによって感じる味は変わるのかもしれません。厄介ですが、複数人で命名すれば多少対策できるはずです。」
「フルーティーな甘みと酸味があるんですが、揮発性のようなものも感じますね。」
「分かります。言いかえるなら浮遊感というか。ダルい感じとか、ベタ付く感じもします。これは命名に組み込みたいですね。」
早速パイプラインパンチのイメージを掴んだ二人。しかし魔のドリンク、モンスターはやはり簡単には攻略できない。
「なんというか、味そのものを表す食べ物が思い浮かばないですね。強いて言うならパッションフルーツとか?」
「パッションフルーツ……いや、自分はピンと来ないですね。そもそもパッションフルーツの解像度が低くて。」
「味でストレートに表現できないならやはりイメージに頼るしかないですね……。どうしてもモンスター的命名(※)にはなってしまうんですが。」
※モンスター的命名:『パイプラインパンチ』及びその他モンスターのフレーバーのような、モチーフを頼った命名。
「さすがに『パイプラインパンチ』ほど突飛な命名にはならないと思います。例えば……。」
こうして我々は思い思いのイメージを命名に乗せていった。
それぞれの命名について紹介していこう。
夏祭り
長所
・祭りという浮かれた存在で浮遊感を表現している
・夏によってダルい感じを表現している。
・パイプラインパンチのイメージである「夏」を汲んでいる
短所
・夏祭りの実態にある面倒くささ(人混みなど)がノイズになってしまう
・夏祭りに浮遊感を見出すのは率直でない
冬に考える夏
長所
・『夏祭り』の派生として、「夏」を汲みつつ浮遊感やダルさを表現している
・「冬に考える」によってあくまで観念的であることを説明し、実態との乖離を補っている
短所
・説明的な印象が勝り、命名として弱い
・観念的すぎる
ストロベリーシロップの上澄み
長所
・味によった命名になっている
・「ストロベリーシロップ」からベタ付きを連想させている
・「上澄み」によって揮発性のようなものを表現している
短所
・「上澄み」という表現は液体の中で純度が良い部分を表す一方で、薄まった部分も表現するため解釈が揺れてしまう
・さほどストロベリーシロップの味ではない
長所
・浮遊感をストレートに表現している
短所
・ホバークラフトは突き詰めれば「他の乗り物でいい」となるもの筆頭であり、語感に対して実態がしょぼすぎる*1
・ホバークラフト特有のゆっくりとした発進がパイプラインパンチのイメージと合致していない気がする
こうして案を出している間も我々はパイプラインパンチをちびちび飲んでいる。
前回の失敗の二の舞にならないように、ちびちびと。
今思えばちびちびしすぎて、イメージと味が一致しているかどうかの確認がおろそかだったかもしれない。
しかしここで、「ホバークラフトの発進がイメージと異なる」という指摘によって議論が少し進む。
「確かに発進がゆっくりというよりは、突然発進してその余韻で進む感じですね。」
「そうです。余韻が残る感じは『揮発性のようなもの』と言っていたことに近いようにも思います。」
「衝撃と余波というか……パイプラインパンチにならうなら(※)、P波とS波かもしれないです。」
※そもそもパイプラインパンチとはハワイのサーフィンスポットで、大きい波がパイプ状になっている様子を表しているため、そこから「波」の要素を汲んでいる。
P波とS波
長所
・パイプラインパンチの「波」の要素を汲んでいる
・命名に時間的な変化の表現を取り入れている
短所
・味の要素を含んでいない
・あまりにも”中学校で習ったこと”すぎてノイズがある
P波とS波はともかく、衝撃と余波は藤田さんに指摘されてかなり腑に落ちたことを覚えている。
実際この飲んだ直後と余韻を分ける考え方は、のちに登場する「前中後理論」の先駆けであった。
「ここにきてパイプラインパンチというイメージが正しかった可能性が出てきていますね。波がやってきて、過ぎ去って、後には揺れる水面が残っている。というイメージが結構ぴったりです。」
「ただ、どっちかっていうと衝撃よりは余韻が強いと思うんですよね。波が来る瞬間よりは過ぎ去った後の方に注目したくて。『パイプラインパンチed』だったかもしれません。」
「パイプラインパンチedは割としっくり来てしまうんですが、これに決定するのは再命名の敗北みたいでちょっと嫌ですね……。」
「確かに……。それと一周回ってな感もありますからね。」
そんなこんなで議論を続けていくと……用意したモンスターが無くなってしまった!
あんなに量には気を付けていたのに……!まだ命名は決まっていないのに……!
「…………もう一本買ってきていいですか?もう少しでたどり着けそうな気がしていて。」
禁断の2本目に突入。
するとここで、我々はとあることに気づく。
「っ!!!味が違う……!?!?」
新しく買ってきたモンスターはさっきまで飲んでいたそれとはまったく違う味がする。
それもそのはずであって、さっきまでのモンスターは我々の長すぎる議論を経て炭酸が抜け、ぬるくなってしまっていたのだ。
「こんなに味が変わっていたんですね……。」
「当たり前なんですが、冷えてる方がおいしいですね。モンスターとしてあるべき姿はこっちなので、この味に沿った命名にしなきゃダメですね。」
振り出しに戻ってしまった!!!
二人はそれでもめげずに再命名を続けるが、ピンとくるものはやはり出てこず…………
失敗しました。
vs.パイプラインパンチ、完敗!
こうして我々はモンスターパイプラインパンチを強敵と認め、一旦他のモンスターから再命名することになった。これに挑むにはまだまだ経験値が足りない気がする。
それに、もう少し人員が欲しい。二人はどちらも杵と臼で言うところの杵になっていて、様々な命名を繰り出しては散っていくのみだった。
二人のついた命名もち。こねて、座して食う人材が必要だったのかもしれない。
そんなことを考えつつ、我々はいつかの雪辱を志し、また別のモンスターの再命名に取り掛かるのだった……。