7月7日(日)
七夕だ。
1年に1度の七夕。しかし、名大生にとっては1年に12度来る7日のうちひとつに過ぎないのかもしれない。
なぜなら……
ケバブが半額になるからだ。
メガケバブ、名大周辺の細い外食事情を支える希少なチェーン店。
下の地図の通り、ちゃんと大学から近いのでお世話になっている学生も多い。
そんなメガケバブで日ごろは単品600円と学生には少し高いピタミディアムが、毎月7日は300円。
ここぞとばかりに名大生が行列を為すのはもはや恒例イベントとなっている。
しかし今日は日曜日。普段の長蛇の列も、学校に来ていない学生たちの分緩和されているんじゃないだろうか。
そんな目論見の元、ぼくは炎天下の中ひいこら自転車をこいでいった。
坂を上りきって到着した先では……
普通にめっちゃ並んでいた。
列の内訳は普段より学生でない人々に片寄っていた気もしたけど、別に学生もいっぱいいた。
名大生は講義がなくてもケバブが安ければ外出するらしい。
そりゃそうか。自分もそうだし。
何なら講義は行かないけどケバブに行く人さえいるのかもしれない。
来てしまったものは仕方がないので列に並び、いよいよ注文の番が回ろうかという時に……手前の人がセットを注文していた。
メガケバブでは単品に+400円すればポテトとドリンクを付けることができる。
これまで「ピタミディアム単品が600円→300円」という情報にとらわれてセットにする発想が無かったので、その時初めて「安いセット」を認識してしまい、その存在を強く意識してしまった。
セット……ポテトか……いやしかし安いから来てるのに+400円は……うーーんでもポテトか……
そう考えている間にも列は進み、注文までの残り時間に反比例して急激に増加する選択圧に押しつぶされる。
結局、単品を2つ注文するだけのつもりが「セットで」と口走ってしまった。
仕方がないと並び始め、勢いに誤魔化されながら+400円を頼んでいる。
ケバブを制すつもりが、むしろ流されてしまう結果になってしまった……。
注文を終えたぼくは、後悔しないよう気を付けながら半額に釣られた多くの客たちが座る席へと移動した。
隅っこに座ると、脇にはいつも置いてあるマンゴージュースが見える。
そういえば何度か来ているのに一切口にしたことがない。
どのメニューを頼めば出てくるのかさえ知らない。
今のところメガケバブは「ピタミディアムとピタビッグ、稀にピタフランス、そしてそれらのセットさえ頼めれば店の全てが知れる」という世界観で来ているので、その他のメニューの事は全く分からない。
マンゴージュースの奥には、ケバブが回転しながら炙られる様子を見ることができる。
ふと気になって調べると、こういう回転式のものはドネルケバブと言うらしい。
ぐるぐる回るドネルケバブが地動説なら、タンドールとか他の窯は天動説だ。
でも別に他の窯も窯側が動くわけではないから、よく考えたら天動でもなんでもない。
そもそもドネルケバブの回転の目的とは肉を切り出すことと炙ることを同時に行うことにあって、加熱そのものは回転がなくても完結しているので全く比較になっていない。
しかも刃が動いて肉を切り出すドネルケバブはむしろ天動説にあたる可能性すらある。
自分が自分に、完全に論破されてしまった。ちょっとした思いつきを上げただけなのに完膚なきまで否定された。最近何かを考えようとするとこんなことばかりだ。
などと考えたり他のことをしたりでまあまあ時間が経った後、ようやくケバブを受け取る番が回ってきた。
そのまま家へ帰って冷房の効いた部屋でのんびりケバブを食べた。
夜
その後は普段通り休日を過ごしていたけど、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
目を覚ますと19時だった。
昼はあんなにしっかり食べたのに、もうお腹が減っている。
食事は定期的にしなければいけないという当たり前を20年以上生きてきてまだあまり受け入れられていないので、つい「もう!?」と思ってしまう。
いまから夕食の用意を考えるのがとても面倒くさい。
そもそも、寝ていたこともあって自宅に食べられるものがそんなにない。
そんな矢先、ふと「ケバブはまだ半額なんだよな……」と思ってしまった。
一度そう思ってしまうと、もうケバブしか考えられなくなる。
ケバブという三文字を思い浮かべた人間としてしか過ごせなくなる。
仮に今からケバブ以外の夕食を用意したとして、それは「ケバブで無いメニュー」でしかないだろう。
そして気付いたときにはメガケバブの前にいた。
昼に比べるとかなり空いている。半額ケバブは夜買いに行くべきなのかもしれない。
今度はさすがにセットにせず、単品2つ。
注文できるギリギリの20時前に何とか間に合った。
そのまま直帰する。
七夕にメガケバブに行くためだけの往復を2度もしてしまった。
すぐ帰って、すぐ食べる。
禁断の二度打ち。しかし昼と全く同じものを食べているのに飽きない。
店員のさじ加減で具やソースの量が微妙に増減しているからかもしれない。
特に客でごった返していた時のピタミディアムは忙しなく大量に作っているからか、結構個体差がありそうだった。
そして、ポテトの代わりに買いだめしてあったバナナを食べた。
バナナは何かのついでに食べる上で完璧の食材だ。なんか健康によさそうだし日持ちもいいし安い。くせも無く食べ合わせがほとんど悪くならない。
食べなければいけないという使命感を満たすために必要な要素がすべて揃っている。偏食大学生は今すぐバナナを試してみてほしい。
もちろんバナナが食材、人材風に言うと食財として優秀だから習慣的に食べているのもあるけど、今日食べたのは何となく七夕といえばバナナという気がしたからでもあった。
去年ほかのメンバーがやってた七夕バナナだ。
バナナを短冊替わりに願い事を書いている。
竹バナナというその時自由研で話題になってた「竹とバナナを組み合わせた概念」の拡張としてやっていた。
逆に言えば普通の短冊は竹短冊か。
竹バナナのコンセプトには「無関係な概念の接続」があった気がするけど、竹と短冊もこれはこれで本来出会うはずのなかった二つな気がする。
それで言うと七夕とは織姫彦星だし、夏の大三角とはベガアルタイルデネブなのかもしれない。
そしてケバブ2個はケバブケバブ。ケバブが10^6個でケバブケバブ……ケバブ=メガケバブということか。10個はデカケバブ。
あるいはメガケバブでケバブ1個を買う行動がマイクロメガケバブなのかもしれない。
そんなこんなで、1日4個目のピタミディアムと1本目のバナナを食べ終えた。
Mega Dayの半額ケバブ、おすすめです。