大学生の自由帳

ペンギンパニックとエノキ工場の香り

医者の「地元密着アピール」

皆さんが「医者」に抱くイメージはどのようなものでしょうか?
私はこんなイメージがあります。

  • 賢い
  • 金持ち
  • 権力
  • 家柄が良い

まるで“勝ち組の象徴”のような職業に見える一方で、医師たちはそのような近づき難いイメージを払拭したいのか、自院のホームページで必死に「地元密着アピール」をしてくる傾向があります。

そこで今回は、名古屋大学周辺にある病院の「地元密着アピール」のクオリティを、筆者の完全な主観に基づいてご紹介していきます。

 

目次

 


 

定義

「院長あいさつ」「院長紹介」「スタッフ紹介」など、それに類するページに記載された、医師本人、または病院の理事長が執筆したとされる地元とのつながりに関するコメントを対象とします。「地域の皆さん」などの抽象表現ではなく、具体的な地名(川名・本山・八事など)を用いた記述であることが条件です。

「地元密着アピール」のクオリティは、その密着度の高さとし、これは筆者の完全なる主観で測定されます。

 

調査対象

GoogleMapで検索することのできる、名古屋大学周辺にある病院の公式ホームページ

 


★(密着度:赤の他人)

◆とりあえず言っておく系◆

地名が出てくるものの、それ以上の内容がない、典型的な「決まり文句」。

この度、多くの方々のご支援とご協力をいただき、名古屋市千種区川崎町にて、さとみ皮フ科クリニックを開院診療させていただいております。

院長紹介 – さとみ皮フ科クリニック

 

このたび、多くの方々のご支援とご協力のおかげで、名古屋市昭和区前山町に「むぎしまファミリークリニック」を開院させていただくことになりました。

ご挨拶 - むぎしまファミリークリニック

 

この度、縁あって千種区本山の地に「はらたクリニック 内科・消化器内科」を開院させていただくこととなりました。

医師・スタッフ紹介|名古屋市千種区の はらたクリニック内科・消化器内科 |高血圧・高脂血症・糖尿病

どれもかなり曖昧な「地元密着アピール」である。とりあえず地名を入れて、病院の場所をそれとなく知ってもらおうとしている魂胆が見えている。
何か裏の事情がないのであれば、もっと自信を持ってほしいし、もっとその「支援」や「縁」の詳細まで教えて欲しい。

★★(密着度:よっ友)

◆地域系◆

当院は城山八幡宮や公園などの緑に囲まれています。一方で本山駅、覚王山駅からも徒歩圏内であり、バス停もすぐ近くにあります。名古屋大学医学部附属病院精神科や愛知県精神医療センターなどの病院が近隣にあり、同じ建物内には内科などの診療所があります。この恵まれた場所にて、引き続き患者様によい治療が提供できるよう努力していく所存です。

医師紹介 | こんどうメンタルクリニック 名古屋市千種区の心療内科

ただ地理的な事実を列挙しているだけで、なんとなく密着感を出そうとしている例である。おおよそその戦略は成功しており、初見ではなんとなく信頼感を抱く。しかし繰り返し読めば読むほどただ列挙しているだけにしか見えなくなってくる。繰り返し読まれることは全く想定されていなさそうだ。

 

◆古参アピ系◆

昭和30年、父、彦坂興孝が地域医療の発展を願い、名古屋市千種区池下に耳鼻咽喉科医院を開院いたしました。

医師・スタッフ紹介 | 名古屋市千種区の耳鼻科 彦坂耳鼻咽喉科医院

地域医療の発展を願っていることと、名古屋市千種区池下の間には何の関係性もない。池下ではなくても、覚王山でも渋谷でもマンハッタンでも、そこに病院が経てば地域医療は発展するからである。池下の発展を願ってほしい。

 

聖霊病院は第二次世界大戦終戦の年、すなわち日本が貧困と荒廃の中にあった1945年に設立されました。以来76年の長きにわたって昭和区川名山の地で医療活動を継続してきました。

ごあいさつ - 社会福祉法人 聖霊会 聖霊病院

デカい病院がやりがちな典型的な「古参アピ」である。地元とのつながりよりは、如何に伝統があり、如何に医療の需要に応えてきたかをアピールしている側面が強い。戦後という背景も相まって、それとなくすごみは感じられるが「地元密着アピール」にあまり重点を置いていないように感じられるので今回は評価低めである。

★★★(密着度:友達)

当院は昭和34年、こころを病む方々に対し、「人間的理解に基づく治療」を理念としてこの地に開設しました。
当時は、緑が豊かな丘陵地で、まだ人もあまり多く暮らしていない地域でありましたが、今では名古屋市東部の文教地区として発展し、大変恵まれた立地条件となっております。

理事長挨拶 | 医療法人資生会 八事病院

同じく「古参アピ」であるが、古参だからこそ書ける情報が書かれており、古参を存分に活かした素晴らしいアピールである。しかし八事出身ではない身からすると、八事という✨高級住宅街✨の古参アピをしているように見え、なぜかイラッとしてしまった。要は、

八事といえば高級住宅地のイメージがあるでしょ?でも、じ・つ・は、昔は田舎だったんだお(^ω^)

と言っているからである。

「地元密着アピール」というよりかは「八事古参アピール」をしてドヤっているだけなのかもしれない。しかしながら、それ含めて味とも言えるし、同じく古参アピ系の聖霊病院よりはいくばくか深みがあるのでこの評価となった。

 

★★★★(密着度:親友)

八事の交差点のこの場所で、1955年から診療を続けている杉浦医院。

スタッフ紹介 | 杉浦医院|名古屋市昭和区八事の内科・小児科・訪問診療|医療法人八事の森

絶対に地元民にしか伝わらない固有名詞的に使われている「八事の交差点」が素敵です。杉浦医院と八事の住民の間には、「八事の交差点」の共通認識があることが示唆されており、短いながらもクオリティの高い「地元密着アピール」である。控えめな古参アピもうざったさがなく、評価は高い。

 

古参アピ系以外のよくあるジャンルに、生まれ育ち・在住系がある。
病院より医師本人との結びつきであるためか、プライベートに踏み込んだ感覚があり、古参アピ系よりも密着感が感じられる。以下が、生まれ育ち・在住系である。

 

◆生まれ育ち・在住系◆

その後、老年医療、認知症治療にも携わり、すべての人が「その人らしく生きる」ことを大事に考え、患者様が、自宅で、地域で過ごすことのお手伝いさせていただければと思い、生まれ育った千種区で開業させていただきました。

医師紹介 | 本山ホームケアクリニック

 

この度幼い頃から慣れ親しんだ星ヶ丘の地で、たくさんの方のお力添えをいただき星ヶ丘ゆり皮フ科クリニックを開院させていただくことになりました。

医師紹介|星ヶ丘の皮膚科・美容皮膚科|星ヶ丘ゆり皮フ科クリニック

 

覚王山は私が生まれ育った町であり、この度ご縁があってこの地にクリニックを開院し、地域医療に貢献できる機会を得ましたことを大変うれしく思っております。

クリニック紹介 | 覚王山内科・在宅クリニック | 名古屋市千種区

 

これらはごく一般的な生まれ育ち・在住系である。生まれ育った、住んでいる、ただそれ以上でもそれ以下でもないのだが── 地元の皆さんはなぜか惹かれてしまうのだ。

中には個人情報の出し惜しみを一切しない、プライバシーを犠牲にしてまで「地元密着アピール」をしようという気概が感じられる医師も存在する。

 

私は覚王山で生まれ、城山幼稚園、田代小学校に通い、高校卒業までこの地で過ごしておりました

名古屋市千種区にある末盛内科クリニックの院長紹介 | 千種区覚王山の内科・消化器内科・漢方内科|末盛内科クリニック

 

平成29年10月に私が希望幼稚園、松栄小学校、桜山中学と幼少時より育ってまいりました昭和区川名本町にクリニックを開業させていただくことになりました。

医師のご紹介|名古屋市の循環器内科・小児科ならさかいクリニック

 

ただし、以下の齋木先生に関しては★である。★をつけることすらできないかもしれない。

愛知県は私が生まれ、育った大切な場所です。この地で築き上げた深いつながりや大切な思いを胸に、当クリニックでの院長を務めさせていただくこととなりました。

クリニック案内|リベ大クリニック名古屋院|星ヶ丘駅 徒歩2分

密着アピールをする地元の範囲が広すぎる場合、逆効果になりかねない。クリニックのある「星ヶ丘」とも「千種」とも「名古屋」とも名乗らないということは、これらのどこの出身でもないということを指している。すなわちこの医師は「地元」出身ではないのであり、三河とかいう別の国の出身である可能性も高い*1。むしろ生まれ育ちアピールをしない方がよかった、そんな失敗例である。

 

◆合わせ技◆

私は名古屋生まれ名古屋育ちの一児の母です。

医師紹介|名古屋市千種区星が丘元町 星が丘耳鼻咽喉科|花粉症、中耳炎、急性咽頭炎|星ヶ丘駅より徒歩1分

こちらの永井先生は、母というインパクト絶大なアイデンティティと生まれ育ちアピールを合体させている。名古屋のどの辺りの出身かは述べていないので、そこの密着度は低いが、母であると述べることによってそんなマイナスを補っている。巧い「地元密着アピール」である。

 

これまでの経験や知見を生かし、自分の名前と同じ、自分が住まう千種区、地域の皆様が人生100年時代を豊かに活き活きと生きていくためのお手伝いができるようなクリニックを創りたいと考え、覚王山に開院させていただくこととなりました。

院長・スタッフ紹介|千種区の内科ちぐさ内科クリニック覚王山

「自分が住まう千種区」だけでは、密着度としては正直やや弱い。──しかし、この先生にはとんでもない武器がある。名前が「千種(ちぐさ)」なのだ。

これはもう、完全なチートである。

通常、患者は「先生の名前」と「病院の所在地」を別々に覚えなければならない。
だがこのクリニックは、そのどちらか一方を覚えればもう片方も覚えられてしまうのだ。ただし一つ注意がある。病院名が「千種内科クリニック覚王山」だと、「ちくさ」と読まれてしまう。先生の本名は同じ漢字で「ちぐさ」。だからこそ、院名はきちんと「ちぐさ」と書いてある。

そのことに気づいたとき、私はすでに──先生の名前まで覚えていた。

加えて、先生の美貌や経歴もインパクト抜群。とんでもなく記憶に残るクリニックである。実際に訪れたことはないが、私はもうこのクリニックのファンだと言ってしまって差し支えない。*2

★★★★★(密着度:恋人)

◆エピソード系◆

星の数ほどある病院の中で、きらりと輝く「地元密着アピール」はたった2つしかなかった。それが、エピソード系である。
エピソード系は、生まれ育ち系をベースに、その生い立ちや背景をさらに深掘りしたアピールである。

名古屋市千種区日岡町で生まれ、クリニックは大学まで過ごした実家を建て替えて作りました。昭和40年11月20日生まれです。幼稚園から高校までは水泳部(田代小学校ではバレーボール部)に所属、中学高校時代はやせていましたが、一浪している間に体重が増えてしまい、現在に至ります。名古屋大学では軟式テニス部に籍をおいていましたが、もっぱら宴会のみの出席でした。休日はプールで泳いだり、犬と遊んでいます。

医師の紹介|名古屋の糖尿病、甲状腺治療のかきや内科専門クリニック

一浪している間に体重が増えてしまったり部活をサボったりするようなズボラさと、国立医に合格したり子供時代から今までずっと水泳を行なっていたりする真面目さの両方を感じられる名文です。大学まで過ごした思い出の実家を建て替えて、これからのキャリアをともにすることになるクリニックを建てたというエピソードも泣けるものがあります。垣屋先生がいかに地元とともに歩んできたかが、手に取るようにわかります。

 

小学校5年生から千種区日和町に住み、約30年になります。ご高齢の方も増え、また、転勤などでこの地を訪れる方々に接したり、周りの子供たちの成長をみるにつけ、「これまでにお世話になった地域の方々に少しでも協力していきたい。」、「健やかで、安心できる生活がおくれるようにお手伝いができれば。」、そんな思いを以前から持っていました。
特に地元での開業を意識したのは、平成23年3月11日に発生した、東日本大震災に対する国立病院機構の医療派遣に参加した経験からでした。現地で目にしたのは、津波で流され、倒壊した建物、辺り一面のがれきの山、それらが広範囲にわたって続く沿岸部、そのすさまじい惨状に言葉を失うばかりでした。そんな中、同じ被災者であるにもかかわらず、懸命に医療活動を続けていらっしゃる、地元の開業医の先生方のお姿を拝見し、感銘を受けました。

私も、「地元である名古屋市、特に千種区近隣の方々に貢献していきたい」、「未来を担う子供たちのために、何かしてあげられることはないだろうか」、「みなさまが住みやすい地域にしていきたい」そんな地元に対する思いが、なお一層強くなり、平成24年2月14日、名古屋市千種区日和町耳鼻咽喉科「ばば みみ・はな・のど クリニック」を開院いたしました。患者さまにとってわかりやすい言葉で、病気の状況や治療方針を説明し、患者さまのご意見も尊重したうえで、ご納得いただける検査・治療をすすめていきたいと考えています。
 近隣の地域の方々に健やかで、安心した生活をおくっていただけるように、お力になれればと思います。ささいなことでもお気軽に、ご来院いただければ幸いです。

ドクター紹介 千種区の耳鼻科 耳鼻咽喉科 ばば みみ・はな・のど クリニック

「小学5年生から〜」ではじまるため単なる生まれ育ち系かと思いきや、感動のストーリーである。一般的に医師は「地域の皆さんに貢献したいです」といった旨を述べながら「“なぜ”貢献したいのか」を明確に示すことが少ない。(この文章も最初の一段落目だけではそんな二流の「地元密着アピール」に成り下がっていただろう)しかし、馬場先生はその点において、非常に明確である。私たち「地域の皆さん」は、まさにこんな医師の志の高さをもって医師を先生と呼ぶのであり、その志を見たくて「医師紹介」ページを見に行くのである。「地元密着アピール」の枠組みを超えて、馬場先生の医師紹介は医師紹介として完璧である。

このレベルになると、単なる紹介文ではなく、人間ドラマを読んでいるような感動がある。医者という存在の社会的役割の重さを再認識させられてしまった。

まとめ

「地元密着アピール」は、とりあえず言っておく系<<地域系<古参アピ系<生まれ育ち・在住系<<エピソード系の順に、密着度が高いことがわかった。

皆さんのかかりつけ医は何系でしょうか?ぜひホームページをチェックしてみてください。

番外編

「地元密着アピール」は無いけれど、心惹かれた名文を紹介します。

もうすっかりおじいさんです。
ペンギンの海とサケの海という昔話ができます。

数年間郊外の病院で外科系の仕事をしていましたが、段々向いてないと思うようになり、大好きだったドクトルマンボウと同じ精神科医になろうと思い、年度末の3月に突然、名古屋大学精神科医局に飛び込みました。

院長紹介 | 医療法人 愛語会 室谷醫院

どくとるマンボウを読んで得たであろう表現力が光る、どこか惹かれる名文です。アピールは見られませんが、全ての院長紹介がこれくらい個性的であってほしい。

 

いつも陽気で明るく、オシャレが大好きです。
医学に関する知識は広く、どんな病気もどんとこい!!
優しく丁寧な説明を心掛けています。近隣の病院との連携を大切にしていて、患者さまやその後家族に、一番適切な医療を提供するように心掛けています。
趣味はスキーとドライブ。
学生時代からスキー選手で、今でもスキー場では一番かっこいい!(玲子先生談)
冬の間は、クリニックにスキーレースの写真を掲示しています。

医師紹介|滝川いきいきクリニック|名古屋市昭和区の外科・整形外科・肛門科・内科・循環器科・リハビリテーション科 滝川いきいきクリニック

「どんな病気もどんとこい!」の一言になぜか安心感と不安感の両方をおぼえる名文です。おそらく患者の私たちは白衣姿の先生にしか会えないので、医師紹介の冒頭に書くほどのオシャレさを知ることができないのが悔やまれます。突然の内輪ノリも最高です。

 

はちや整形外科病院… HachiyaOrthopaedicHospital
History 名古屋の中心部で半世紀以上続く歴史
Operation たしかな手術実績と気持ちに寄り添った術後サポート
High Quality より詳しく、部門別に分かれた専門治療

はちやについて | 名古屋の人工股関節・人工膝関節・スポーツ整形なら【はちや整形外科病院】

(医師紹介ページではなく、クリニック紹介ページですが)まさかあいうえお作文に遭遇するとは思いませんでした。「は」「ち」「や」でやればいいのに、わざわざ英語を使っているところに絶妙に腹が立ちます。

 

後日談

千種区役所の入口にちぐさ内科クリニックの広告がありました。千種区がちぐさ区になる日も近いかもしれません。

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*1:筆者は三河育ちじゃん。怒らないで欲しいだら。ごめんりん。

*2:実は、この先生の「地元密着アピール」に魅了されてしまったので、この記事を執筆するに至ったのである。