突然ですが、みなさんは大学生ですか?
それとも中高生、あるいは専門学校生や卒業生でしょうか。
大学生ならわかると思いますが、大学は一般的に卒業まで最短でも3年かかることが知られています。
ところが、大学キャンパス内である一定の挙動を行うことで、様々なバグやイベントスキップを引き起こし、卒業までの時間を大幅に縮めることができます。
その結果、現在の名古屋大学卒業RTA公式記録は17分4秒です。
というわけで、今回は名古屋大学卒業RTAの攻略法をまとめていこうと思います。
旧記録「9日22時間0分32秒」の出し方
まずは、名大卒業RTAが行われるきっかけになった技術の話をしましょう。
名大卒業RTAの最初期、法学部に入学することで理論的に最短9日と22時間で卒業できるという発見がなされました。
その発見の内容は、以下のようなものです。
順に説明していきましょう。
まず、名古屋大学においてイベント「卒業」を引き起こすには、以下の条件を同時に達成する必要があります。
- ステータス「取得単位数」が、各学部規定の卒業要件を上回っている。
- 卒業論文を提出し、査読イベントをクリアしている。
- 卒業式の日にマップ「豊田講堂」に入っている。
基本的に、この3条件がそろった時に「卒業」のフラグが立つ仕組みになっています。
ところが、法学部の場合は2つ目の「卒業論文」をスキップできるので、理論上は単位さえ取得していればいつでも卒業できるわけです。
また、ある名大の文学部生が教育学部のロッカーを通り抜けようとした際、偶然にも名大のシステムバグを発見してしまいました。
ロッカールーム隅の床から深さ25㎝ほどのコンクリートの中に、謎の未実装システム「単位ショップ」の残骸が埋まっていたのです*1
埋まっていたのは起動の判定と最低限のシステムのみで、システムの外観やオブジェクトなどは一切埋まっていませんでした。
「単位ショップ」の性質は以下の通りです。
- 「単位ショップ」の起動判定に重なった状態でコマンド「調べる」を実行すると、システムが起動する。
- システムが起動すると、ドラムロールする数字が記された選択肢が複数と、“購入”と書かれたボタンが1つ現れる。
- 数字を増やしてから購入ボタンを押すと、数字の分だけ各授業科目区分の「取得単位」ステが増加し、1単位当たり650円が「所持金」ステから引かれる。
ちなみに、「単位ショップ」の判定は地中に埋まっているので、これを起動するにはバグ技を使用する必要があります。
俗に“埋まりジャンプ”と呼ばれている技ですが、
- しゃがんだ状態でジャンプする。
- 空中でしゃがみを解除する。
- 着地する前に再びしゃがむ。
- 地面すれすれでしゃがみを解除する。
- 成功すれば足が地面に埋まる。
というバグ技です。
この現象は、名大キャンパスの限られたマップ(教育学部棟や学生会館裏庭など)でのみ見られることが知られていますが、原因が何なのかはまだ分かっていません。
なお、埋まりジャンプに成功すると移動できなくなります(足が埋まるから当然)が、階段を上るみたいに足を動かせば簡単に脱出できるので気軽に試してください。
さて、以上の2つの条件がそろったことで、名大法学部では異常に速い卒業が可能となりました。
つまり、
- 入学手続きを済ませた後、教育学部棟の「単位ショップ」で規定の132単位を購入する。
- 3月25日の卒業式に参加する。
たったこれだけのステップで卒業が可能だということが発見されたのです。
この理論は法学部生の間で俗に“脱法セオリー”と呼ばれ、机上の空論として誰も実践に移さないままネタとして話し継がれていました。
ところが6年前の平成25年度、ついに脱法セオリーを実践する者が現れました。
最初の記録は9日23時間3分21秒でしたが、この偉大な法学部生は132単位の購入に90,000円近くもの金をつぎ込み、1度の授業をも受けることなく無事に卒業してしまったのです。
これをきっかけに、脱法セオリーが机上の空論ではないことが証明されました。
そして、名大卒業をいかに早く成し遂げるかという競争が法学部生の間で始まり、晴れて名大卒業RTAが競技として成立したのです。
その後、記録短縮のために工夫が必要だということが分かってきました。
具体的には、入学手続きをできるだけ締め切りギリギリに済ます必要があります。
なぜなら、キャンパスライフ開始のカウントは入学手続き終了時から始まる(公式ルール準拠)からです。
中には、RTAに意気込むあまり手続きの締め切りを逃し、そもそも入学するのに失敗した学生もいるといいます。
そして、3年前の平成29年度にあの記録9日22時間0分32秒が叩き出されたのです。
名大側のアプデと脱法セオリーの消滅
ところが、こうして熱を帯び始めた名大卒業RTAに水を差す事件が起きてしまいます。
なんと、昨年度に名大が2度にわたって行ったシステムアップデートにより、脱法セオリーが使用不能になってしまったのです。
そのアプデの内容は次のようなものでした。
- 法学部へのキャップ制(年あたりの取得単位数上限)の導入(4月)
- 「単位ショップ」システムの除去(7月)
まず、法学部にキャップ制が導入されたことにより「単位ショップ」で購入できる単位数にも制限がかかるようになってしまいました。
1年次には38単位までしか購入できず、入学した年に即卒業という流れが不可能になってしまったのです。
これに対し、名大卒業RTA界隈では新たな手法の開発が求められました。
1年次修了のフラグをバグ技で立てる方法、「単位ショップ」の制限を開放する方法、教授を買収する方法、などが試されましたが、いずれも失敗に終わりました。
そんな折、7月に行われた微小なアプデにより、なんと「単位ショップ」システム自体が削除されてしまったのです。
『学生の正当な学習評価を妨げるバグを解消した』
と大学側が説明するこのアプデにより、名大卒業RTA界隈は大きな絶望感を味わうことになりました。
このアプデをきっかけに、名大卒業RTAはもはや不可能とする意見が多数を占めるようになりました。
成し遂げられた神の記録「17分4秒」の出し方
ところが、そんな暗澹たる雰囲気をぶち壊す大革命が起こったのです。
昨年の令和元年度、ある名大医学部生が入学するや否や17分4秒という驚異的な速さで卒業してしまったのです。
アプデによりRTAそのものが不可能と思われた状況で、突如として9日21時間43分28秒の記録更新という凄まじい記録が叩き出され、この非現実的な事態に名大RTA界隈は大荒れしました。
そんな中、見事卒業を果たした医学部生は名大卒業RTAに対してこんなコメントを残しています。
高校生の頃から名大卒業RTAに興味を持っていて、いつか記録を更新したいと思っていた。
従来の法学部を使うセオリーではなく、医学部医学科の後期入試を利用することでさらに記録を短縮できると思った。
この方法を研究するためにニ年浪人したので、無事に卒業できて嬉しい。(名大学生新報 令和元年度秋・冬号より)
というわけで、彼は従来の方法とは全く別の方法でこの記録を達成したらしいのです。
この新しいセオリーは最近「BJセオリー」と呼ばれ始めましたが、一体どういう方法なのでしょうか。
まず、名大医学部医学科の後期入試について説明しましょう。
名古屋大学は後期入試を導入していませんが、医学部医学科だけは例外的に後期日程の入試を行っています。
その結果、医学部医学科の後期で合格すると入学手続きの〆切日が通常よりも遅くなります。
法学部前期日程の手続き〆切が3/15なのに対し、医学部医学科後期日程の手続き〆切は3/25、実に10日近くもの差が生まれるのです。
しかも、3/25は卒業式が行われる日程と同じ。
これにより、入学した日に卒業することが可能と考えられるのです。
さて、このような発見がもとになって編み出されたBJセオリーですが、理論上は入学日に卒業できそうに見えても、それをRTAで実現するには課題が山積みだったといいます。
そんな中、2年の浪人を経て研究されたこの手法の手順は次の通りです。
かなり奇怪な手順やバグ技を用いていることが分かるでしょう。
- 医学部後期で合格する。
- 名大生協でアイテム「二重画鋲」「単位チョコ」「せいきょうミルクプリン」「ドクターペッパー」を数量99ずつ購入する。
- 卒業式の日にマップ「豊田講堂」に侵入する。
- 大講堂隅の壁に向かって「埋まりジャンプ」→「スライディング」を行い、壁抜けして屋外へ出る。
- 合格手続きを済ます。
- 名大北部生協へ向かう。
- 「二重画鋲」を全身に装備し、使用しようとすると同時に100個目の「二重画鋲」を購入装備する。成功すると、画鋲の所持数ステが全学基礎科目の取得単位数ステと入れ替わり、全学基礎科目の取得単位数が1になる。
- この状態で「二重画鋲」を2個捨てると、画鋲の所持数は減らずに全学基礎科目の取得単位数が65,535単位になる。
- 「単位チョコ」「せいきょうミルクプリン」「ドクターペッパー」でそれぞれ同じ手順を踏むと、文系基礎科目、理系基礎科目、専門科目の取得単位数がそれぞれ65,535単位になる。
- 合計取得単位数が262,140単位となり、即座に卒業のフラグが立つ。
一体どういうことなのでしょうか。
順番に説明していきます。
まずはじめに名大医学部後期日程を受験し、合格します。
この時点で相当難しい気もしますが、これはまだほんの準備にすぎません。
合格したら、入学する前に名大生協で「二重画鋲」「単位チョコ」「せいきょうミルクプリン」「ドクターペッパー」を99個ずつ購入しておく必要があります。
これは後の手順で使うためですが、これらを全て購入するのに約45,000円かかります。
脱法セオリーよりは安く済みますね。
これらが済んだら、3/25の朝9:30から始まる名大卒業式に参加します。
この点が1つ目の大きな変更点です。
脱法セオリーでは「入学手続き→単位取得→卒業式」という順のチャートが用いられていましたが、BJセオリーでは「卒業式→入学手続き→単位取得」という順になっています。
まだ卒業要件を満たすどころか入学もしていない段階で卒業式に出席し、「卒業式出席」のフラグを先に立ててしまうことが可能なのです。
「卒業式出席」フラグは1度立つと日付変更イベントの発生まで立ちっぱなしになる性質があるので、このフラグを立ててから悠々と卒業要件を満たせば卒業できます。
なお、卒業式に部外者が出席することは通常できませんが、防具「リクルートスーツ」を装備してうまく監視員の目をかいくぐりましょう。
一旦マップ「豊田講堂」に入ればその時点でフラグが立つので、次は卒業式を抜け出して入学手続きをする必要があります。
卒業式の終了を待っていると手続き〆切を過ぎてしまい、かといって堂々と退室しようとすると監視員に見つかって厄介なイベントが発生してしまうので、ここではバグ技を用いて壁をすり抜けます。
まず、マップ「大講堂」では埋まりジャンプが可能なので、壁の隅で埋まりジャンプを行います。
この時、周りは当然卒業式で厳粛な雰囲気なので、ミスを重ねずに一発で決めないと確実に怪訝な目で見られます。
周囲の目は気にせず、確実に成功させましょう。
無事に足が埋まったら、そのまま壁と壁が直角に交わる点に向かって思い切りスライディングします。
うまくいけば、壁の判定をすり抜けてそのまま入口前の階段辺りまで移動できるはずです。
移動に成功したら、手早く入学手続きを済ませ、ここからタイム計測スタートです。
以降は時間との勝負になります。
北部生協まで走って向かいますが、このとき大量の「二重画鋲」「単位チョコ」「せいきょうミルクプリン」「ドクターペッパー」を持っていかねばならないので、事前にしっかりと筋力をつけておくのが良いでしょう。
事実、記録保持者の医学部卒生も
浪人中は毎日筋トレに励んでいた(名大学生新報 令和元年度秋・冬号より)
と話しています。
北部生協に到着したら、ここからがBJセオリーの正念場になります。
難しいバグ技を4回連続で決める最難関が待っているのです。
ここで使用するバグは、世界中の大学卒業RTAで一般的に使われている「同時イベントバグ」の一種ですが、名古屋大学にて当該バグが使われたのは公式記録としては初めてのことです。
そのうえ、アイテム所持数を取得単位数に書き換えるような絶大な「同時イベントバグ」が発見されたのは、おそらく日本でも初めてのことでしょう。
名古屋大学システムの脆弱性が露呈した形になりますが、名大卒業RTA界隈にとっては嬉しいことですね。
その内容は次のようなものです。
- アイテムを装備上限の99個装備する。
- 同じアイテムをもう1つ買って装備しようとすると、生協のおばちゃんに
「同じアイテムを持ちすぎみたいねぇ。足りなくなったらまた来てちょうだい。」
と言われ装備できない。 - ところが、そのアイテムを使用する処理と装備する処理を同時に起こすと、なぜかステータスのスプライトナンバーが書き換わり、他のステータスの数値と処理が入れ替わる。
これをRTAに利用したのがBJセオリーというわけです。
今回の場合、「二重画鋲」「単位チョコ」「せいきょうミルクプリン」「ドクターペッパー」の所持数ステがそれぞれ医学部医学科生の全学基礎科目・文系基礎科目・理系基礎科目・専門科目の取得単位数ステと対応しています。
これにより、アイテムの所持数を変化させることで取得単位数を操作できるようになったというわけです。
また、ステータス「取得単位数」はシステム上マイナスの値を取ることができません。
よって、アイテム所持数ステを取得単位数ステに入れ替えた後でアイテムを2つ捨てると、取得単位数がー1になれずに最大値へオーバーフローします。
この凄まじいバグを用いることで、合計26万単位という規格外の好成績を残して卒業することができます。
なお、医学部医学科にも卒業論文はないため、4回目の「同時イベントバグ」に成功した時点で即座に卒業のフラグが立ちます。
卒業の瞬間を北部生協で迎えることになるので実感がわかないと思いますが、ステータスを確認すると確かに「卒業」となっているのが分かるでしょう。
今後の展望
昨年の大事件以降、名大卒業RTA界隈は再び活気を取り戻しています。
記録保持者の卒業生は、高校生の時代から何度も豊田講堂や北部生協に通って研究を深めていたといい、記録更新に用いられたBJセオリーはすさまじく完成度の高い方法でした。
しかし、記録保持者によると
今回のランでは、北部生協まで走る途中で最短経路を少し外してしまった。また、最後の「同時イベントバグ」も一度失敗したので数秒のタイムロスがあった。 やや心残りだが、再走は難しいので以後の走者に期待したい。(名大学生新報 令和元年度秋・冬号より)
との感想を述べており、さらなる記録更新の余地が予感されています。
1年に1度しか開催できない競技ゆえ、来年度の参加者には期待したいところですね。
また、今回の記録で名古屋大学キャンパスのシステムの脆弱性がはっきりと示されてしまいました。
これを受けて、名大当局が再度アップデートを行ったり、デバッグを強化したりすることが予想されます。
あるいは、北部生協の品ぞろえが常に同じとは限りません。
事実「ドクターペッパー」は留学生以外にはあまり売れていないらしく、いつ商品が消えてもおかしくありません。
今後もたゆまずに新たな技術を発見していくことが求められるでしょう。
*1:「単位ショップ」システムは、かつて学生が密かに実装しようとして大学側に阻止されたシステムの名残だという都市伝説もありますが、真相は謎です。