突然ですが、最近日本中で侵略的外来種が問題になってますよね。
日本に元からいる在来生物を襲って殺したり、住みかやエサを奪ったりして間接的に生息数を減らしちゃう、困ったヤツらのことです。
有名なのだとブラックバスやアライグマなんかがいますね。
さて、そんな侵略的外来種の中でも、とりわけ侵略的なヤツらがいます。
何の動物だか分かりますか?
まあ最も侵略的な外来種は何かって言ったら、当然我々人類に決まってますが、その次の次の次くらいにランクインするかも知れない水棲生物がいます。
それが本稿の主役、ミシシッピアカミミガメです。
ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)とは
ミシシッピアカミミガメは、通称「ミドリガメ」として、一昔前は縁日の屋台などで売られていました。
若いうちは手乗り程度の大きさで、きれいな緑色をしていて可愛いのですが、それはあくまで若いうちの話。
成体になったミドリガメは、もはや緑でも何でもない黒ずんだ色合いになり、体長は15~25cmほど、なかなか巨大になります。
そのうえ食欲は旺盛で寿命は20~40年と長く、雑食ながら肉を好んで食べます。メスなら無精卵を毎年生みます。
ま、捨てますよね。
現在では日本中すべての都道府県で例外なく大繁殖し、持ち前の生命力を生かして用水路から貯水池、河川などに幅広く生息しています。
名古屋の都市部にすら繁栄し、在来のカメたちのニッチをことごとく奪っている訳です。
まあ、カメに責任がある訳ではないんですがね。
そしてこのミシシッピアカミミガメ、手軽に食えて美味しいカメとして最近流行っているそうです。
カメ吉を捕獲する
という訳で、ミシシッピアカミミガメを捕って食いましょう。
幸い(?)近所の川にも池にもいくらでもいます。
ペットを飼い切る気概のない人たちのおかげですね。感謝。
このカメたち、普段は水の中に潜っていて視認できませんが、4月くらいの晴れた日には一斉に陸に出てきて平和そうに甲羅干しをしています。
なので、快晴の日には簡単にお目にかかることができます。
しかし、どうやってカメを捕まえたものか?
本当は籠で作った罠を使うのが良いですが、当然そんなものに金を使いたくありません。
釣るのも手ですが、竿用具一式を持って行くのもどうも面倒くさい。
「普通に手で捕れねえかな?」
ずぼらな僕は、どうしてもこう思ってしまうのでした。
ある日、僕は駅で友人と待ち合わせをしました。
駅に行く途中、大きな川の近くを通るのですが、その日は快晴、見ると何匹ものミシシッピアカミミガメが悠々と甲羅干しをしています。
友人との待ち合わせには時間的に余裕もあり。
「どうせ捕れねえだろ」
と思いながら川岸まで下りていきましたが、地面が石ではなく泥だったので一瞬で靴が終了。
カメの方はというと、案の定僕を見るとものすごい勢いでバッシャバシャ逃げていきます。
お前らそんなに足速かったのか。
捕れないことに内心ちょっと安堵しつつ、最後に一群れ襲撃して駅に向かおう、と決心。
泥に足を取られながら必死に襲うと、やはり何匹もいたカメたちは一瞬で散り散りになります。
しかしそこに一匹明らかに足の遅いカメが。
哀れカメ吉。南無三。
カメ吉を裁かず捌く
カメ吉は自転車の籠に一晩放置されました。
その後、カメ吉は僕の友達の家に絶食状態で一週間飼われることになります。
腸の内容物を排泄させる作業「泥抜き」をするためです。
(ミシシッピアカミミガメはただでさえ臭みがなく、泥抜きは不要とも言われていますが、念のため)
なぜ友達の家かと言うと、両親に拒否されたからです。
僕「カメ捌いて食っていい?」
父「絶対やめた方がいい」
母「止めてもどうせやるだろうからせめて家以外で」
余談ですが、カメ吉を一瞬だけ庭に隠しておいたところ、母が帰宅した瞬間イヌにチクられてバレました(ここ掘れワンワン的な動きをしたらしい)。
一週間後、雨の日の深夜にそれは決行されました。
友人のアフロを引き連れ、まったく無人の公園に向かいます。
用意した道具は、まな板、包丁、ノコギリ、マイナスドライバー、ペンチ。
まずペンチで下あごをつかみ、首を引き出すために自重でぶら下げて疲れさせます。
ミシシッピアカミミガメの首はクッソムキムキなので、なかなか疲れてくれませんが、やがて首が伸び切ったままになります。
生々しいカメ吉の姿に、
「侵略的外来種ではあるものの、そもそも外来種などという概念自体人間が作ったものだしなあ」
などと考えてしまいます。
カメ吉の命を裁くことなど、私たち人間にはできません。
が、動物として他個体を殺して食うことはごく自然なこと。
ここで感情的になってしまっては、文明に平和ボケした菜食主義者そのものです。
包丁を手に持ち、逡巡の果てに斬首。
良い包丁ではなかったのでかなりギコギコする羽目になり、大きな精神的ダメージを負いました。
即座に逆さまにして血抜きする訳ですが、カメ吉の後足がバッタバッタ動く。
僕「おーカメ吉動くなぁ! ほれほれツンツン」
アフロ「かわいい」
斬首のショックからすでに正気はありません。
ちなみに頭も普通に動いてました。
ここから先は、甲羅をノコギリとマイナスドライバーで割り開き、内臓を摘出することになります。
もはやカメ捌きのグロテスクな光景にも慣れが見えてきて、最初は恐る恐るだった手つきがどんどん大胆になっていきます。
甲羅を開いた辺りから周囲に途方もないカメ肉臭が立ち込め、どんどん僕たちの正気を奪っていきますが、未だにカメ吉は至って元気。
生前と全く動きが変わらず、包丁を入れようとすると後足で指相撲を挑んできます。
一体カメ吉はいつ死んでくれるのでしょうか。
「実はこいつら、生前も脊椎反射のような反射の組み合わせで動いてるだけで、生きているときから特に『意識』と呼べるものなんて存在してないのでは?」
こんな哲学的な考えも浮かんできます。
結果、3時間かかり悪戦苦闘しながらも、何とか無事に内臓を全摘。
ちなみに、解体して判明しましたがカメ吉はメスでした。
インスタ映えしそうな臓器No.1と名高い卵巣(キンカン)も、食えるので取っておきます。
ミシシッピアカミミガメの可食部位は極めて少なく、まとまった肉が取れるのは四肢と背筋だけです。
甲羅が大きいので肉も多く見えますが、実際には体をぴったり甲羅に収納できるようになっているため、見た目以上に肉は少なめ(あと肝臓がでかすぎる)。
四肢を切り取ろうと頑張りますが、カメの皮膚はマジで強靭極まりなく、一向に切れていきません。
さらに、この期に及んでまだ当然のように動きます。
カメ吉の右足「ウネウネ……ウネウネウネ……」
僕「ハァ?」
アフロ「かわいい」
こうして、通しで4時間半ほどかかってカメ吉はバラバラになりました。
家に帰ってからもまだ仕事はあります。
足に皮膚がついたままなので、それを引っぺがさねばなりません。
ちなみに、アフロと別れるまでは妙にハイにキマッていたテンションが帰宅中に正常に戻り、僕は深夜のキッチンに一人お通夜状態で佇んでいました。
足の皮は、ペンチで挟んで全力で引っ張ればきれいに剥けます。
ただし、マジで文字通り全力で引っ張るので、肉体的にもそれ以上に心理的にも甚大なダメージを被ります。
あとカメ吉まだ動きます。
足をつかんで皮を引っ張っていると、突然ビクッと動くので足をぶん投げそうになります。
半狂乱になりながら何とか四肢の皮むきを終え、味のしないカレーを食ってから即座に寝ました。
向こう三日間は、手に染み付いたカメ吉臭に苦しめられることになりました。
論理武装と実食
こうしてカメ吉の解体を終えた僕ですが、事前に徹底的な論理武装をしていたおかげで、カメ吉を殺した罪悪感に苛まれることはありませんでした。
その論理武装というのが、
- カメ吉は侵略的外来種。ほっとけば他の在来カメが死ぬ。
- ミシシッピアカミミガメは大量に生息しており、多少捕っても自然環境への影響がほぼない。
- 生物として生き物を殺して食うのは当然。普段から僕らはブタ吉やウシ吉を殺して食ってるし、菜食主義者だって植物を殺して食ってる。そもそも生き物は死んで当然。
というものです。
感情的に「なんて残酷なことを!」と言ってくる平和ボケした市民からは、これで身を守れるわけですね。
さて、数日たって、次はいよいよ実食です。
ミシシッピアカミミガメは唐揚げ専用カメとの呼び声が高く、スタンダードに唐揚げで攻めていきましょう。
ただし母の言いつけで調理場は屋外です。
足の関節・爪付きという禍々しいブツがカラッと揚がりました。
いざ実食。
肉の味としては、臭みは全くなくクセもほとんどありません。
少しだけ僕を苦しめたあのカメ吉臭がしますが、もも肉は割にジューシーで、全体にゼラチン質のジャキジャキ感があります。
ただ、足先などは肉がビーフジャーキー並みに硬く、なぜか火が通った肉がオレンジ色に見えます。
これに関しては、カメ吉が(恐らく)年寄りだったからかも知れません。
そもそも異常に足が遅かったから捕まえられた訳なので、カメ吉は十中八九おばあちゃんガメだったことでしょう。
さらに、関節を切らずに揚げたせいで腕・足が曲がり切ってしまい、非常に食べづらい状態に。
あとこれは極めて個人的な感想ですが、めっちゃカメ吉食ってんなあという感覚が襲いかかってきます。
骨付き肉でジャキジャキしてるので、どうしても生前のカメ吉が思い出される。
自分は食べ続けるうちに気分が悪くなってしまいました。
ちなみにアフロいわく、
「心臓がうまい」
とのこと。
今回一番の収穫だったのは、紹興酒がカメにクッソ合うと判明したことです。
カメ肉の濃い味と紹興酒のアミノ系のうまみとは、非常によくマッチしました。
実食のまとめとしては、ミシシッピアカミミガメの肉には不味い要素は見当たりません。
では美味いのかというと、今回は僕の精神的鍛錬が足りなかったせいで適当な判断を下す自信がありません。
ただし、どれだけ美味かったとしても、あんな防御に全振りした野郎どもを解体する手間と可食部位の少なさとを加味すると割に合いません。
やる前に気づけって話ですね。
なお、卵巣は味噌漬けになってるので今度食います。
カメにはサルモネラ菌がいるので、必ず火を通して食べましょう。
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